君がいるから
頭の中で思い巡らせながら、ウィリカへ問う。
「……言ったことって、私」
「くすっ。自分で言ったんだよ? 今し方」
笑みを微かに浮かべ、額に手を添え思考を巡らせるも――分からない。その内、ふぅ~と小さく息を吐く音が耳に届く。
「言うこと何でも聞きますから。君はギルに向かって、そう言ったんだ」
人差し指で自分の唇に押し当てた後、その指で私の口元を示す。
「君の可愛い唇がね?」
そう言うや否や、片側の瞼をふわり閉じる。ウィリカの自然な動作に一瞬見惚れた私だったけれど、はたと我に返り掌で唇を覆い隠す。
「思い出した? ほんの数分前の出来事なんだけどね」
鼻でくすり笑って、腕を組み顔を軽く伏せるウィリカ。
"あなた達の言うこと、何でも聞きますから"
"私は何処にも逃げない"
"約束します"
「あっ……そっか。私そんな事……」
「う~んまぁ、動転してたみたいだしね。とりあえず、シャルネイに着くまでゆっくり横になってな」
ウィリカは壁から離れ、すたすた歩き扉に向かう背に思わず声を掛ける。
「ウィリカっ」
「ん? 出発は早くても1時間後。顔色が悪いから、眠れなくてもベットで横になってた方がいい」
「ウィリカっ、あの、あのね」
「シャルネイに着いた時、倒れたら元も子もない。大事な人に伝えたい事があるんでしょ?」
首を横に少し倒し、ウィリカは目を細め微笑む。
「ありがと」
「お礼、言われるほどの事は何もしてない。元々、僕達は感謝されるどころか忌み嫌われる存在だからね。あきなもそうは思わない?」
「それでも、ありがとう」
ウィリカは笑みを浮かべ変な子だなぁ――と呟き、手を左右に振り扉を静かに閉めてこの場を後にした。
静寂が再び訪れたこの部屋に、激しく天井に打ち当たる音が、一際大きく響き聞こえ始める。背後にある小窓に近づき、硝子窓には当たっては滴り落ちていく雫をただ眺めた。激しく降り続ける雨は、私の胸の奥を騒がせる。
――そろそろ始まるよ――
――一緒に血の雨を降らす時が来たんだ――
今も耳に残る声に背筋が震え、腕を交差し自分を抱きしめ膝を折り、その場に座り込む。
「お願い、どうか夢のままで」