君がいるから


 いつまでも止むことのない鋭い視線を避けるように目を逸らしたら、両肩に重みが乗っかり、ほのかにマリン系の香りがし視線を横方へ向けたら――ウィリカの横顔が間近に。目を丸く驚いている私には目もくれず、ウィリカが目の前の相手に向かって微笑む。

「女の子をそんな風に睨むのはよくないよ、ギル」

「っるせー! おめーは黙ってろ!!」

「そんなに怒ってばかりいるとさ、女の子に嫌われちゃうよ? あきなにもね」

「はぁ!? おめーはいつもいつも、へっらへっらして気持ちわりーんだよ!」

 強気な態度で人を見下すような言い方に、嫌な気分にさせられる。すっと肩の重みが消えたかと思えば、私の横を通り過ぎていくマリンの香りを纏った人物は、静かにギルに近寄って――突然胸倉を掴んでしまう。

「ウィリカ!?」

 優しさを纏ったウィリカさえ、ギルガータの一言にやはり怒ってしまったのか。喧嘩勃発――この言葉が頭を過り、幾分か喧嘩が弱そうに見えてしまうウィリカの突然の行動に、驚くと共に焦ってしまう。

「ギル。いい加減にしないと」

 元々の声質よりももっと低く――重い声。私の角度からギルガータの表情が見え、ついさっきまでの、人を強気に見ていた瞳が見開かれていき、顔色も血の気が引いたように青ざめ強張っている。私からはしなやかな白の髪にウィリカの顔は隠され、表情を窺うことは出来ない。

「わっ……分かったつーの。悪かったな」

 途切れる言葉で、ウィリカへと言い放つ。すると、掴み上げていた手と体が離され、相手の肩を軽く叩くウィリカ。

「いいよ。許してあげる」

「その二重人格、どうにかしろよ」

 さっきまでの強気な態度が嘘のように静まり、口先を少し尖らせながら口にするギルガータの姿に、私は首を傾げその様子を見ていた。一体何が起こったのか――傍に戻って来たウィリカの顔を窺う。けれど、何事もなかったように、笑みを浮かべる表情からは想像する事は出来ない。

「おいっギル、見ろっ!! 前方に煙が上がってるぞ!!」

「んだと!?」

 突如、大声を上げ腕をいっぱいに伸ばして指し示す人物の言葉に、一斉に窓の外へとその場にいる全員の目が向けられる。

「ありゃ……シャルネイの城下町と城からだ」

 私は窓へと駆け寄り、手を着いて指し示された方を凝らし見る――そこで、目を見張った。遠くに見える、私が数日過ごしていた場所から黒煙が空高く立ち上っていて、美しく聳え立っていた建造物は無残な姿に変わっている。そして、その下方からも黒煙が次から次へと立ち上っていく。


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