君がいるから


「おい、こりゃ……マジでやべーぞ」

「どうした、何か見えたか」

 長く伸ばした筒状の望遠鏡を持ち黒煙が上がる方向を覗き見ている人が、口を開いたまま硬直している。

「答えろっルカ!!」

「…………」

「だぁー!! 貸せ!!」

 硬直したまま動かないルカと呼んだ人物から、無理に望遠鏡を奪い取り、その中を覗き見るギルガータ。様子を見守っていたら、さっきの男の人と同じ反応を見せ始めたギルガータの姿に、速度を増していく鼓動を抑えるように胸元を握った。

「まもなく、城下町上空!!」

「一体、どうなってんだ、こりゃ……」

 ネゼクさんが口にし、駆け寄り硝子の外を見遣るウィリカの隣で、私もまた硝子に手を着き窓外を見下ろす。

「ひどいな」

 ウィリカが1人呟く。この場にいる全員の誰もが口を閉ざす――残酷で火の海と化した光景に。建物は倒壊し炎が燃え盛り、上空から小さく見える至る場所には動きを見せない――人の姿。

「……これ、ゆ……めの……」

 口元を手で覆った直後――何かの気配を感じ顔を上げた。視線の先――黒煙の中から徐々に姿を現す大きな宙に浮く影。

「ギル!! 左方にゾディック帝国の空中要塞!!」

 ウィリカも同じ方角へ向け、焦りの表情と声音で言い放ち、ギルガータが私達の元へ慌てて駆け寄って窓外を確認。

「ネゼク!! 面舵いっぱいだっ! 城の裏手に回れ!!」

「おうよ!!」

「速度も上げろ! あんな馬鹿でかい化け物に攻撃されでもしたら、こっちはひとたまりもねぇっ」

 その瞬間、ぐわりと船が大きく揺れ、私はその反動で後へ仰け反って足がもつれてしまい、後方へ倒れかけた寸前に腰を強く引き寄せられた。

「危ないから僕に掴まってて。これからもっと揺れる恐れがある」

「うん。ありがとう……ウィリカ」

 ウィリカの腕が強く腰に絡みつき、私もまたウィリカの腕を頼りにしがみ付く。彼の言った通り、速度を上げた船は大きく揺れ始め勢いよく突き進む、一際目を引く場所へ。心臓が煩いほどに激しく波打つ――。あの残酷で悲しい夢が断片的に頭を過ぎっていく。

 ただ――あの優しさに満ち溢れた人達の無事を、願い、想い続ける。



   Ⅷ.黒の予言 完


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