君がいるから
* * *
「我々をいつまで待たせるのだ」
腰の辺りまで伸びた白の長髪、胸元まで伸びた白髭、額には細冠を装着している。
これまでの年数を物語らせる皺が顔にも手にもある老人たち数人が、数十メートルはあるだろうテーブルに備え付けられた椅子に座っていた。口々にボソボソと不満の言葉を発する。
その数人いる中の――他の老人達と距離を取った扉の傍にいる1人が、自分の目前で膝を着き、頭を下げている者に視線を向けている。老人の額には金色に輝く細冠。
「アッシュはまだか……」
「申し訳ありません。只今、アディル副団長と共にお見えになると思いますので、もうしばらくお待ち下さいませ」
老人に報告すると立ち上がり、一礼をして老人達の元から立ち去った。
「一体、王も何処にいるのだ。時間通りにも来もせんな」
口々に一つため息をつく老人達。扉の傍にいた老人がその場から離れ大きな窓に向かうと、陽が落ちていく時になった空を見つめた――。
***
「ここでお待ちいただけますか?」
金やら銀で模様が形作られている大きな扉の前に私は立っている。そして扉が開かれ、また背中を手で軽く押されて恐る恐る中に足を踏み入れた。
「わぁ……すごい」
そこには、アンティーク調の家具の数々。天井も何メートルあるのか、分からないくらいに高く、私の身長とは比べ物にならない位の大きな窓。その窓から入ってくる光で、金銀や色とりどりで出来ている置物が光り輝いていた。
「今、飲み物をお持ちしますね」
溜息しか出てこない部屋の物に見惚れすぎていると、背後から声を掛けられ振り返ったら、男の人が扉を閉めようとしているところだった。
「あの!! 待って下さい」
「はい」
咄嗟に制止の言葉を投げ掛けたら、扉を閉めようとしていた手を止め、私と視線を合わせてにっこりと微笑む人。
「何か御用がおありですか?」
「その、えっと」
「ん?」
何も考えずに呼び止めてしまったものだから、続けて言葉となって出てきてはくれず。どうしよう、どうしようとあらゆる方向に視線を泳がせていく。そして、咄嗟に思いついたことは――。
「えっと、お名前教えていただけますか!? 気遣って頂いたので……あの、その、駄目ならいいんですけど」
ぎこちない笑顔と少し上擦った声で言い放ち、名前を聞く明確な理由がまとまりがないものだと、彼に向けていた視線を落とした。