君がいるから
* * *
「はぁはぁ……こんな……酷い」
目前の光景にそれ以上言葉が出ない――。
大きな瓦礫が行く手を阻むようにしてあちこちに崩壊し、何処からともなく焦げ臭い匂いと混じって鉄臭さが漂ってくる。ふと見上げれば、ある筈の高い天井に円状の穴が大きな口を開けていた。そこから見えるのは、淀んだ色の雲。
「んっ……」
いきなり、頬に当たる冷たい感触に反応して、瞼を一瞬瞑る。頬に落ちてきたモノを確認しようと、手を添えた時だった。次々に同じ感触のモノが頬だけではなく、足元に無数の跡を残していくのを目にし、再び仰ぎ見る。
「雨」
弱々しく落ちてくる雫が、次第に強さを主張し始める。その瞬間――断片的にあの時の夢が過ぎってしまう。
「……やだ」
くらり――目が眩む感覚に体がよろめいたけど、何とか足に力を入れ持ちこたえた。
「夢。そう、あれは夢なんだから。あんなこと現実になることなんて」
そう口にしても胸の奥深い所では、ざわざわと言葉にすることが出来ない何かが残ってて唇を一文字に結ぶ。拳を固く握り、瓦礫が転がる通路の地を蹴って、先へと急ぐ――。
――助けて――
勢いよく走り出したのも束の間――頭に直接響いた声に足を止めた。
「誰? 誰かいるの!?」
――誰か助けて、怖い――
再び聞こえた声に、四方八方に視線を動かす。
――怖い……もう、やめてくれ。それ以上見たくない―――
何かに酷く脅え助けを求める声音の主を探すも、その姿は何処にも見当たらない。
「助けに行くからっ。あなたは何処にいるの!?」
――こっち――
今度は左の耳元で一際大きく聞こえた声は、先ほどよりも幼く感じられる。
――こっち。こっちだよ――
今一度、私を誘導する声に振り返ると同時に、足が独りでに一歩前へと進み出す――。