君がいるから
「はぁ……はぁ、ここ?」
声に導かれ行き着いた場所――。
扉の一枚が破壊され崩れ落ちている、ある部屋の前。この場所には、まだ訪れたことはないのにも関わらず、迷わず来れたのが不思議に思える。
――怖い――
――もう……やめてくれ――
また聞こえる弱々しい声――それもこの部屋の中からなんだと、扉の傍にある瓦礫などを避け近づく。
パキパキッ ジャリッ
足を踏み出す度に、床に転がる様々な破片が音を立てる。壊れた扉の向こう側は薄暗く、今いる自分の場所からはよく中は見ることは出来ない。まだ、かろうじて形が残る片側の扉に手を添えてゆっくりと顔を覗かせた。
(薄暗い。本当にあの声の子はここにいるんだろうか?)
中は窓もない一室らしく、明りを灯さないと中の様子がとてもじゃないけど、分からない。手元には何も灯りになるような物を持っているはずもなく、一呼吸をおいて瓦礫を跨ぎ恐る恐る足を踏み入れた。
「誰かいますかー?」
口元に手を添えて言葉を発してみたら、思いのほか大きく自分の声が部屋中に反響し再び返ってきてしまう。それに伴って、反応が返ってくるかと思っていたものの。
「ここじゃないのか……な。でもあの声はたしかに」
数回呼び掛けてみるも、やはり反応は何も無くて――首を傾げ目を凝らして辺りをよく見渡す。たしかに声が聞こえ、無意識に足がここに向いただけなのか。この部屋にいる――そんな気がしてならないのは何故だろう。
だからもう一度だけ。そう思って、思いっきり酸素を吸い込み――。
「あのー!! 誰かいますか!? いたら返事をして下さい!」
再び反響する自身の声。
「……勘違いだった……か」
返答はなく小さくため息をつき、ここに誰もいないと思った以上は長居してるわけにもいかない。行かなきゃいけないところがある――元来た道を引き返そうとした時だった。
「も……やめ……く」
私の左側の方向からか細く途切れた声が微かに届き、その方を見遣る。この先にどんな相手がいるのかと少し体が震えるけれど、あの助けを求めた声の主かもしれないと思い、ゆっくりとまた一歩薄暗い中へと入って行く。