君がいるから
私の胸にぐったり頭を預けているレイ。轟音が聞こえた時、咄嗟に私は衝撃から守るようにレイの頭を抱きしめていた。
「レイ」
返答が無いレイを軽く揺すって呼びかけ続けたら、うっすらと瞼が開かれていく。綺麗な蒼の瞳は虚ろのまま、視線がゆっくり上げられた。
「息苦しくない?」
「……ぁ、あ、んた」
「私のこと分かる? あなたの部屋に勝手に入って怒られたって言えば思い出すかな」
微笑みながらそう言葉にすると、レイは分かってるとでも言うように瞼を閉じては再び開いた。その様子を見て安堵を含んだ微かな息が漏れる。けれど、背後からパラパラと瓦礫が落ちてくる音と、床に当たり落ちる音が聞こえてくる様子から、一度緩んだ口元を引き締めた。
「立てる? 移動しよう。ここにいたら、いつ床が崩れ落ちるか分からないから、少しでも安全な場所へ」
呼吸は苦しそうに感じるけれど、尋常じゃないくらい震えていた体は落ち着きを取り戻しつつある。このままこの場にいても、何が起きるか分からない。
それに私は行かなきゃいけない所がある――でもレイを置いてなんて行けない。レイを少しでも安全な場所へ連れて行かなきゃ。せめて、ジョアンさんにでも会えたら――。
「ゆっくりでいいから」
そう言ってレイの腕を首の後に回す。ぐったりと座り込んでいるレイを立ち上がらせるのにはかなりの力が必要。それでも、今は私しかいないんだから、そんなこと気にすることもなく足に力を入れ踏ん張る。
「とり、あえず、早くここから出なきゃ」
「ハァ……ハァ……あんたさ」
「何?」
「俺、ハァ……なんか……ほっ、とけよ」
壁の力も借りて何とか立ち上がったレイが、虚ろなままの瞳で私を見下ろしてきた。その瞳と出合うと、私は思わず口元を緩めてしまう。
「……何、笑って……んだ……」
「変なこと言うなぁって思って」
「……な……にが」
「ほっとけって言われて、はいそーですか――ってなるわけないでしょ」
私の言葉にただ見据えてくるレイに、にっこりと微笑んで見せる。すると、ふいに視線を外し顔を俯かせたレイを目にして静かに笑う私。そうして、レイの脚がゆっくり前へと踏み出され、彼の腕を支えながら私も同じように前へ歩み出した――。