君がいるから
これからどうなってしまうのか。それに――最初に会ったあの人は、城に入るなり門番のような人に何やら耳打ちをした後――。
『その女、頼んだぞ』
アディルさんにそう言い放ち、自分は1人で城の中をさっさと歩いて行ってしまったのだ。
思い出し終え、一つ息を吐き出してソファーに腰を下ろした。
「ふかふかぁ」
座るとどこか心が安らぎ、柔らかく肌触りもいい、こんなソファー座ったことない。家にあるのと、比べ物にならない。
背もたれに寄りかかると、しばらくしない内に一気に眠気が襲ってくる。まるでさっきの緊張が解けてしまったように、目を閉じかけたけれど――。
「寝ちゃ駄目、駄目」
頭をブンブン思いっきり振って眠気を飛ばしたけど、でもその効果はほんの一瞬だけ。再び瞼が下りてこようとした、その時――。
「そこに、誰かいるのですか!?」
突然響き渡った大声に、さっきまで下りていた瞼が勢いよく上がった。足音を響かせながら、部屋に入ってくる人と目が合ってしまう。
「あなたは一体誰ですか!? ここは許可がなければ入れない場所なんですよ!!」
大声を上げながら大股で近づき寄って来る、白と黒のメイド服に腰にエプロンをしている50~60代くらいの女性。
「見慣れない顔ね、あんたはどこの娘だいっ。まさか、許可なく城に入り込んだってわけじゃないだろうね!?」
私の真横に立つと、おばさんは眉を吊り上げて捲くし立てた。その表情に、さっきまで僅かにあった安心感が一気に掻き消される。
「あの、違うんです……。ここ……で待つよう……にって言われて」
「声が小さいね!! ハッキリとお言い! 門番は何をしてるのやらっ。こんな娘1人入り込んだことに、気づかないなんて。ジン様に何かあってからでは遅いというのに」
間近で大声を出されて、体がビクッと硬直してしまう。ますます、おばさんの眉間に皺が寄り深く刻み込まれていく。
「……あ……の」
「もういい! あんたは、さっさとここから出て行きな! これ以上いるというのなら、地下牢へ連行することになるよ!!」
おばさんに思いっきり腕を掴まり上げられ、無理やり立たされた。鞄も投げ付けるように渡されて、扉の方へ力強く押されていく。そして乱暴に部屋から追い出されてしまった。