君がいるから
* * *
「あきなっ、あそにいるぞ!」
遠方――光が指示す方角に、建物の合間から白灰の髪の持ち主の姿が飛び込む。私の手を引くジンが叫び指し示す。
「アッシュさん。よかった……間に合って」
「いや、ちょっと待て。様子がおかしい」
「え?」
地面に叩きつけるように降る雨に邪魔され、思うように先が見えず今一度目を凝らすと、確かにアッシュさんの様子がいつも感じる雰囲気と違っていることに気づく。
アッシュさんは、一点を見つめたままそこから動こうとはしない。それに――何か酷く驚いてると同時に、怯えているようにさえ感じる。アッシュさんの前に何かあるのだろうか。建物が邪魔して、アッシュさんの後ろ姿以外、見えてこない。
「アッシュ!!」
たまらず、ジンが大声で叫び呼ぶけれど、雨音に消され声が届いていなのか反応はない。
「あいつ、一体何してるんだ」
「アッシュさん!! アッシュさん!!」
私もまた大声で彼の名を呼び続け、雨に濡れた制服が重く感じながらも駆け縮める距離。もうすぐそこだと思った時、ふっと腕に合った感触が無くなり――。
カキーンッ
鉄同士が重なる音が突然すぐ傍で鳴り響く。その音の方へ視線を移すと、ジンが黒の剣を使い敵の刃を受け止めていた。
「ジン!!」
「先に行け!! こいつは俺が食い止める!! あきな、お前は早くあいつの元にっ!!」
ジンへと刃を向ける黒の服を纏った人物の背後から、数人がこっちへ駆け向かってくる。
「ジン、でもっ!」
「いいから、俺の事は気にせず行け!!」
一歩後ずさりジンの背を見つめ、きゅっと口を結び敵の背後とジンを交互に見遣り躊躇う。
「あきな!!」
自分の名が叫ばれた時、私は瞼をきつく閉じジンに背を向け駆け出す。背後で何度も聞こえる鉄音に、胸が締め付けられる。
(ジン……ジンならきっと――きっと、大丈夫)
そう願いに似た想い――胸の前で拳を握り締め、建物の間を駆け行く。