君がいるから
瓦礫が所々に転がる中を必死で避け掛けながら、目指す先にいる人も元へと急ぐ。建物の間を抜け切った先で、一度足を止めて肩を使い呼吸を繰り返し、やっとの思いで辿り着く。
「アッシュさん!!」
名を叫び呼びはしても、アッシュさんは微動だにしない。私達との距離は遠くはない――聞こえてはいる筈なのに、何の反応もしてくれないのは私だからなのか。不安に思う私は、よりアッシュさんの元に近づこうと数歩進んだ時、アッシュさんの影から現れ始めていく、もう一つの影。
(アッシュさんの、近くに誰かいる?)
ごくり――1つ生唾を飲み、その影を確かめる為にアッシュさんの背から移動し角度を違える。そうして、はっきりと見えてきたもう1つの影の正体。一瞬にしてあの夢が蘇る。真っ黒な外衣を見に纏い、フードを目深に被った人物。
(同じだ――夢で見たのと)
そして、私達の目の前にいる人物がフードにおもむろに手を掛け後方へ落とす。
ドックンッ!!
「な……なに!?」
ドクンドクンドクン ドクンドクンドクン
速度を増す指輪の鼓動――ハッと目を見張り、背後を急ぎ見る。空へと上っていく一際大きな濃灰の煙の中でゆらり、脳裏に断片的に映し出されていく。そして、空から降ってくる雫で小さくなる濃灰の煙中から、微かに現れていく揺れる、銀の髪。
「アッシュさん、後方!! 避けて!!!」
目にも止まらぬ速さで隙が有るアッシュさんの背を目がけて突っ込む刃と、私の声に反応し我に返ったアッシュさんが振り向くのはほぼ同時。アッシュさんへと狙いを定めた刃はもうすぐ傍に――。
そう思ったら、知らずのうちに自分の体が勝手に前へ動き出していた。
(私に何が出来るか)
サァ――アカイアメヲフラスヨ――
(何も出来なくても――それでもっ)
――生々しく耳に届く皮膚を切り裂く音、噴出すのは赤い血飛沫。口腔から赤い液体が吐き出され、横たわる彼の顔が倒れた瞬間に私へ向けられる。目が薄く開かれ、悲しげに色を失った瞳が私を。