君がいるから
幾度も頭に過っていくあの夢を必死で掻き消す。私がここに戻って来た理由は、この夢を現実にさせないことのはず。だから、だから、どうか――。
シヒュッ!!
一瞬、強い風が私を横切っていく感覚に目を見開く。
「あ!!」
視線の先に映った光景に更に目を見開き、声が上げたと同時に体の動きを止める。銀髪がアッシュさん目掛けて、剣を振り落とそうとする寸前。銀髪の背後へと高く舞い上がり、相手を強い眼光で睨みつける――漆黒の瞳。
「ジン!?」
そう私の目前に突如現れたのは、先ほど別れたばかりのジンの姿を目にした途端、安堵の気持ちが溢れ胸元を握った。そして、その時――。ジンの真下にいる人物が、どこにそんな余裕があるのかと思わせるほどのしなやかな動きで振り返る。
「やっと――来たんだね」
「何!?」
ギルと対峙した時と同じく口端をゆっくりと上げる。銀髪の表情に、私の背筋がぞくり震えた。ジンの振り下ろした刃を銀髪は軽やかに避け、双方共に地へと降り立つ。
はっと気づきアッシュさんを見遣ると、ジンと背中合わせに黒の外衣を身に纏った人物へと対峙していた。
(よかった、アッシュさん……)
胸を撫で下ろした途端、足の力が抜けそうになりながらも、その場で何とか踏みとどまる。
「やっと会えたよ~王様。待ってたよ」
「お前達は何が目的だ! 多くの民――騎士達を殺め、俺は絶対に許しはしない!!」
ジンの叫び声にアッシュさんの方から視線を移した先に、怒りを露わにするジンの鋭く強い瞳が銀髪を睨みつけている。でも銀髪はそんなジンを、にやにやと笑みを浮かべて甲高い声を上げた。
「ははははっ!! そうそう~その瞳が大好きで堪らないよ」
「な……んだと」
「もっと……もっと、もっとだ。もっと僕に憎悪を膨らまさせて」
「貴様、何を言っている」
「そうだ! 王様にすっごく良いこと教えてあげるよ~」
良いこと――その言葉に妙な感覚を覚える。銀髪は目を細め首を傾けて、先ほどよりも口端を上げ、おもむろに口元が動き出す。
「あんな、よっぼよぼのさ」
「…………」
「ただ、呪文を唱え続けてた連中の斬る感触ってさ」
「"最悪"だったなぁ――」