君がいるから
まるで生き物のように剣を包み込んでゆく黒煙がうごめき、ジンの腕にまでにも絡まっていく。足が無意識に一つ後退。地にある水滴に混ざった砂の音が、嫌に大きく聞こえる。
(あの煙、すごく気持ち悪い。怖い……嫌……)
そう頭の中で警告音のように繰り返し続ける。
「はははっ!! あぁ~あって、ん? な~にそれ、魔法でも使えるの」
「……う……な」
「は? 何? 聞こえないよ、もっとはっきり言ってくれないとさ」
ジンの腕から、遂には頭上にまで達してしまう煙。
――ソレイジョウハ、キケンダ、ッヤメロ――
突然、頭に一際大きく響き、全身全霊で叫ぶ。
「ジン!!!!」
ジンの体を全てを覆いつくしてしまった煙が、そのまま体の中へと一気に吸い込まれ――瞬間。彼を纏う空気が一変。ゆっくりと上げられていく面。その漆黒の瞳に。
「ジン……?」
光が宿っていない異様な瞳の色。それは、まるで――。
「ジン!!」
もう一度名を叫んだ、刹那――ジンは重々しい黒い剣を片手で軽々と振り上げ地に向かって落とす。
ゴォォォォォォォーーーーーッ!!
途端、とてつもない轟音が響き渡り、一瞬にして辺り一面に砂埃が舞い上がった。
「キャーッ!!」
あまりの強烈な突風で目も開けられない上に、体が支えられなくなった足が地から離れ、浮遊を感じている間に背中から落ちていく。
とすっ
背中を強打するだろうと予想をしていた筈なのに、一向に襲ってはこない衝撃に自分がどういう状況なのか。突風が徐々に鎮まっていくのを感じそっと目を開くと、辺りは砂埃や瓦礫がバラバラと落ちていくのがうっすらと見え始める。砂埃によって喉が渇き、強く吐き出される息。
「ごほっごほっ! 一体今のは……ジンは、いっ――」
言葉の途中で止めたのは、視界が霞む中いつの間にか全体に感じる重みと感触に気づいたから。それに視界に微かに入ってくる濃青の布地。状況がうまく把握出来ず、瞬きを数回繰り返している間に、重みが引いてその隙間から風が吹き抜けていく。ゆっくりと上げた視線の先にあるのは――。