君がいるから


 空から降り注ぐ雫に濡れる白灰の髪。毛先から一つ、また一つと雫が下方へと落ちていくのを目にする。そして、青い瞳と私の瞳の視線が交わる。

「っ――アッシュさん!?」

(アッシュさん……が……私を、助けてくれた?)

 今もまだ降り続ける雨に濡れたアッシュさんの肌。いつものように眉間に皺を寄せ、私を見つめてくる青の瞳は変わらず厳しい。なのに、その表情はどこか。

「おい」

 青の瞳にしばらく引き込まれていたら、低音の声が間近で耳に届いて我に返った。

「えっ……はい」

「怪我はないか」

 驚きすぎて、時が止まったかのような感覚に襲われる。この人が私の心配をしてくれるなんて、思ってもみなかったから。

「あっ……は、い」

「なら、いい」

 言葉を返すと、アッシュさんは途端私の背後へと移動し、より眉間に皺を寄せ鋭く厳しい眼差しを奥へとやった。その奥に何かあるか、私もアッシュさんの視線を辿り移す。目に飛び込んできた鮮やかな緑に見入る。その視線を少し下ろしていき、次に出合ったのは最初に目にした同色と――白の。

「瞳……」

 こちらを見据えてくる――緑と白の瞳。

 シャキンッ

 微かに鉄が引き抜かれる音が耳に届き気づくと、剣を鞘から引き抜き目の前の相手を睨みつけているアッシュさんの姿があった。

「アッシュ、さん」

 小さく呟き、アッシュさんの青い瞳の視線が私へと落とされる。

「お前は下がってろ」

「でもっ。アッシュさん、あのっ私、あなたに伝えたいことがあって」

「余計な口を開かず、俺の言う通りに動け。二度は言わせるな、いいな」

 前へ向き直ったアッシュさんの静かな気迫に、アッシュさんの言葉通りに私は視線を俯かせ数歩後ずさった。さぁっ――2人の間に冷たい雨の風が吹きつけ、強く地面へと落ちては溜まりの中で弾けていく。

「ヴゥッヴオーーっ!!」

 突然、異様な声が響き渡り肩に力が入る。

「ウッア"ァア"ーーっ!!」

 繰り返す苦しげに聞こえる悲鳴に似た声に、ゆっくりと振り返った先、目に映った光景に言葉を失う――。


< 286 / 442 >

この作品をシェア

pagetop