君がいるから
幾度となく煙柱が作り上げられていく。耳に衝撃が走るほどの爆音と共に一際大きな煙柱が空高く昇った。もくもくと、動く鈍色の中を凝視。頭上から降りそそぐ大粒の雨が次第にその煙を散らしていき、一定の距離を保った2つの黒い影が見え始め、ごくん――喉が鳴る音がやけに耳に響いた。
鈍色の中から現れたのは、幾つもの筋が腕から指先へと流れていく赤黒い血。深手を負っているのは明らかなのに、痛さを微塵も感じていないのか無表情で冷たい視線を送る銀髪の男。その視線の先、首筋に血管が異様な程に浮き出たまま、肩を上下に動かし荒々しい息遣いのジンの姿があった。
ジンの額には、雨のせいなのかそれとも汗なのか――雫がしたたり落ちていき、吸い込まれそうなあの漆黒の瞳の色は理性や感情等今はない。最早、私の知ってるジンではなかった。
* * *
「お前の背後は何やら騒がしいな。気ならないのか、アッシュ」
「…………」
「お前のその瞳の強さが、俺は好きだった」
そう言って懐かしむように、口端を微かに上げ見せた黒尽くめの男。だが、、アッシュの目にはその姿に顔を歪めた。
「あなたは、あの時たしかに」
剣を持つ手が微かに震えるアッシュは、隠し抑えるように掌に力を込めた。それをすかさず気づいた男は目を細め白の瞳が冷ややかさを感じさせる。
「そうだ。あの時、お前の目の前で確かに俺は――」
黒尽くめの男は最後まで言葉にせず、細めた目でアッシュを見つめる。アッシュは一瞬だけ――彼から逸らしたい衝動に駆られたが、白と深緑の瞳から逸らすことが出来ない。
「アッシュ」
「…………」
「俺はたしかにここにいる」
「…………」
「アッシュ――俺が怖いか?」
アッシュの透き通るような青と、男の鮮やかな深緑と白色の瞳と視線が交じり合う。だが、青の瞳は微かに動揺を隠しきれずにいた。揺れる瞳を見逃さない白と深緑の瞳は、全てを見透かしているかのように黒尽くめの男は再びを口端を上げる。