君がいるから
バタンッ!!
廊下に響き渡るぐらいに扉は力強く閉められた。その音は今の私にはとても――。
「どうして……こんな……」
自分でも何が何だか分からない。ここで待っているようにって、アディルさんから言われていただけだ。
追い出されてしまった部屋の前で、ただただ立ち尽くす。
「そこの娘」
突然、背後から声をかけられて体が更に硬直する。
(アディルさんじゃない……あの男の人でもない。違う誰か――)
肩に手が置かれた、その瞬間――。
「嫌ぁー!!」
気づいたら、長い長い廊下を逃げるように地を蹴って走り出していた。城の中なんてまったく知らないのにも関わらず、無我夢中で駆け抜ける。
その間――後ろから追って来ているだろう男の声がする。
「待ちなさい!! 止まりなさい!! そっちはっ」
そんなの聞く耳持たずに足を止めることはしなかった――ううん、出来ないんだ。きっとここで止まってしまったら――。
だんだんと視界が滲んで、見えにくくなっていく。手の甲で目元を擦ると手の甲残る水の感触。瞳から溢れ出ているんだと気づく。拭っても拭っても出てくるのは――涙。
何度も――何度も――何度も、拭いながら必死で止めようとした。
その間にも必死で走り続け、所々で人とすれ違ってもそんなの気にも止めない。
私を追っている人はすれ違った人々に『止めろ! そっちに行かせるな!!』っと怒鳴り声を上げながら、私を折って来る。
捕まりたくない――帰りたい――。その想いだけで走り抜ける。
息も上がって酸素がうまく吸えなくなってきた頃に、何処まで続くのか分からなかった廊下の先に、あの部屋よりも一回り大きな扉が見えてきた。
そして、導かれるようにそのままの勢いで扉へ――。