君がいるから
* * *
「へー……この俺に傷をつけるなんて。やるね」
小首を傾げ細めた瞳がジンを見つめ言う。だけど、その視線の先にいる相手は。
「グルグルグ……ヒュウヒュウッ……グルルルッ」
獣のように喉を鳴らし、今にも飛び掛りそうなほどの殺気を放っている。でも、銀髪は気にも止めず、肩に手を置き左右に首を鳴らす。
「でもさ。俺のキレイな肌に痕が残ったらどうしてくれんの?」
銀髪はそう言って、指先まで流れ付いた赤い雫を舌を長く出し舐め取った。ゾクッと私の体が反応し、吐き気が襲われ口元を手で覆う。咄嗟に口元を抑えた手から、指輪の赤い光がまるで警告するかのように点滅していることに気づく。
「う"あ"ーーーーっ!!」
突然、指輪に連動したかのように聞こえた凄まじい叫び。天を見上げ、激しくもがき苦しみ出したジン。
「う"あ"ーーぁあ"ーーっ!!」
「ジン!!」
「――っがっは」
私が彼の名を叫んだと同時に声が止み、操り人形の糸が切れたように、重みのある音を立て地へ崩れ落ちた。
「ジン!!」
私は咄嗟にジンの元へと駆ける。
(――私、こんな夢見てない)
ジンの傍へ辿り着き、身を屈めぐったりと横たわった体を抱き上げた。
「ジン!? しっかりして!! ねぇ、ジン!!」
私がそう間近で叫んでみても、何の反応を見せないジンの瞼は固く閉じられたまま。
「お願いだから、目を開けて!! ジン!!」
雨に打たれているせいなのか頬に触れた掌に伝わってくる体温は冷たく、血の気が引いたようにとても青白い肌。まさか――不意に過った不安に、ジンの胸元に耳を押し当て瞼を閉じる。
トクンッ トクンッ
耳に届いた一定のリズムを刻む心音。そっと胸から離れ、胸を撫で下ろす。
「――よかった」
「あっれ? 君はさっきの女の子かな?」
頭上から降ってきた――少し不快が残る声音。一瞬、全てが止まったような錯覚が起こる。こくり――生唾を飲み、ゆっくりと見上げた先に。