君がいるから
見上げた先で出合った、温かさがまるでない冷たい、冷たい銀の瞳。
「そこどいてくれる?」
たった一言。それだけなのに、背筋が震えゴクリッと喉が鳴り動く。
「聞こえた? ど・い・て」
傍から見れば微笑んでいるように思える口元、でもその瞳の奥はまるで違う。相手に分かるか分からないか、かぶりを微かに振る。
「ねぇ~聞こえてる~? そこどいてよ~。まだ、その人と遊びたいからさぁ~」
人差し指を上下に揺れ動かし示すその方へ、そっと瞳だけを動かし真下へと目を遣る。固く閉じられた瞼はピクリッとも動かない、ただぐったりと横たわるジンの姿。そして、再び視線を戻し一度強く腕に力を込めてから、ジンの体をゆっくり腕から降ろして、銀髪を見つめ静かに両腕を水平に上げた。
「――ん? それさ、何の真似?」
男が私の行動に不思議そうな表情で、首を傾げ問いかけてきた。本当は怖くて怖くて、すぐにでも逃げ出してしまいたい。
「ふ~ん。そんなに震えてる君に、どうやってそこに寝てる王様を助けられるの?」
くいっと顎を使い、ジンの方を示す。
自分でも分かってる――無力で守られてばかりの私に何が出来るのかって。
「ん? あれ? そういえば、どうしてかなぁ~。人の顔なんてあまり覚えないたちなのに、君のことは覚えてるなんて」
「…………」
「君はあまり面白いことしてくれそうにないのにねぇ~。どうしてかなぁ」
チャキッと剣を微かに動かす音が耳に届き、唇を強く結ぶ。
「まぁいっか、そんなことはどうでも」
雨に濡れた銀の髪をかき上げ、冷めた視線で見下ろす。
「どいてくんない? それとも、そんなに斬られたいの? まぁ~男より女を斬るのがこの剣は好んでるし、丁度いいね。たまには、好物を与えてやらないと」
鋭く尖った剣先を、私の額に触れるか触れないかの距離に差し出される。少しでも、この男が動かせば終わり――。こうすれば、怖さからジンを置いて1人逃げるだろうと思っているのか。もし逃げたとしても、背中を見せれば即座に、この切っ先は私を貫く。例え命乞いをしたとしても、この男は涼しい顔をして、剣を振りかざすんだろう。それなら、私の答えは揺るがない――。