君がいるから
「――私はここから動きません」
「めんどくさい」
「こんなもので脅されても。絶対にここから動きません」
「ふ~ん。あっそ、じゃあ――バイバイ」
鋭く尖った剣先が天へ向けられ、それを目にしたのを最後に瞼をきつく閉じたと同時に――両の掌を握り締める。瞼の裏に浮かび上がってくるのは、大切な……大切な人たちの笑顔。
(ごめんなさい――父さん、コウキ。アディルさん!)
想像も出来ない、痛みが襲ってくるのかと思っていたそれを思う間もなく、一瞬にして自分の人生は終わったのか。
ギッ ギッギギッ ギッギギ
無の世界へ辿り着くと想像していた中、耳に届く金属が擦れ合う嫌な音。閉ざされた瞼の向こう側で、一体何が起こっているのかそれを確かめる為に恐る恐る開く。きつく閉じていた瞼のせいか、視界が少しぼやけてうまく正体をつかめない。その微かな視界で視線を少しずつ上げていき、ようやく捉えた光景。
青に身を包んだ見慣れた姿、揺れる金。甘い香りはとても優しく安らぎをもたらす――。
「――アディルさん!!」
一気に視界が鮮明に映り、思いのままその名を叫ぶ。青い隊服、金の長い髪、逞しい背中、剣を受け止める力強い腕。
『――何があっても俺が守るから』
頭の中に響くのは、あなたの声。
キーン――力強く銀髪の男を押し返し剣を一度振り下ろしたけれど、男はその攻撃を交わし身軽に空中で一度回転して互いの間合いを取りながら地に足を着けた。
「まぁた、邪魔者が入ってきた。いちいち、やだねぇ~こういう展開は」
「アディルさん、どうして……」
剣を構えるアディルさんの背中へ呟くと、紅い瞳がちらりとこちらに向けられた。
「あきな」
「……アディルさ、ん」
「無事で本当によかった」
口端を緩やかに上げて微笑んだ横顔を見た途端――強張っていた体から少しずつ力が抜けていく。微かに私の視界が歪み始め、瞼を咄嗟に押さえ込み唇を強く結んだ。
不謹慎だとさえ感じた。この時――私は気づいたのかもしれない。今まで感じたことのない、心の奥深くからこみ上げてくる……温かく溢れ出てきたものが何なのか。