君がいるから
紅の瞳とほんの数秒間――視線を交わせていた時。
「何、お互いに見つめ合っちゃってんの。そういうの嫌いなんだ。感動の再会ってやつ」
この時に割って入ってきた声音に、赤の瞳は私からその主へと移される。
「お前は何者だ」
「は? 名乗るなら普通自分からが礼儀じゃない? でもまぁ、こっちは聞かなくても分かってんだけどね」
「ふざけた物言いだな。お前達、ゾディックの目的はなんだ!? 罪も無いこの国の民を傷つけてまで……何がしたい!」
こんなにも声を荒げるアディルさんを目にするのは初めて。声も表情も怒りと憎しみが溢れているその瞳。そんなアディルさんの感情を逆撫でするかのような、不気味な笑みを浮べている男。
「罪も無い……ね? それはどうかな」
「何!?」
「本当に罪をまったく犯したことが無い人間なんて、この世の中にいるのかな。ん~例えば――シャルネイ国、騎士副団長アディル=リウィン君」
「なっ!」
「君には無いの? 罪を犯した事」
「……っ!」
男がアディルさんを指差しそう言い放つと、アディルさんの殺気が一瞬にして消え、瞳を揺らす。
「ア、ディ……ルさ」
剣のグリップを握る手が、かたかたと小刻みに震えてる――何かに脅えるかのように。
「ははっ、やっぱり。その顔から察するとあるんだね? 償いきれない罪」
「ハ……ァ、ハァッハァッ」
肩を使いながら荒々しく息をし始めたアディルさんの様子に、立ち上がり咄嗟に彼の腕を掴む。
「アディルさん!! 大丈夫ですか!?」
額から形の良い輪郭を沿って落ちていく一粒の汗。私の声が届いていないのか、目を見開いたままその場に立ち尽くしているだけ。
「アディルさん! アディルさん!」
「ハァ……ハァ、ハァハァッ」
「図星だ。くくくっ、君も何だか楽しませてくれそうだ、予想通りだよ。また一つ、面白いことみ~っけ。君のこと覚えておいて正解だ」
不気味な男の笑みとその声が私の感情に触れたのを機に、唇を噛み締め男を目をいからせてじっと見つめる。
「ははっ。そ~んな風に睨みつけられると嬉しいな。堪らないよ」
そう男が言葉にした刹那――頭の中であの夢の断片が走馬灯のように駆け巡っていく。