君がいるから
「危ないっ!!」
叫んだと同時に、アディルさんの体を力いっぱいに押し倒し、自身の体もまた下方に落ち行く。
ドシャッ!!
音をたててぬかるんだ地に着いた途端に。
シュンッシュンッシュンシュンッ ザザッザッザッ
空を切り裂くような音と、何かに突き刺さり止まる音が耳に届き、倒れた時に感じた鈍い痛みに絶えながら体を起こしそれを確認する。
「……っ!!」
目を見開いて一瞬だけ息が止まる感覚に陥る。私達の足元に無数の矢が突き刺さっていたから。それもほんの数センチ先。
吸うのも忘れた息が一気に再動して、心臓がドクドクッ脈の速度が増していく。息を弾ませていくと同時に、手が震えていくのに気づく。
(……今になって。しっかりしろ、私)
「な~に? 今になって怖くなった?」
心を見透かされる、頭上から降ってくるあの声。顔を上げずに震える手を握り締めた時。
「今度は俺を睨み付けないの? ざ~んね~ん」
言葉が聞こえた直後、顎に冷たい指先が触れて無理やり上を向かされてしまう。男は膝を地に着け、私より高い位置から見下ろす。顎から男の指先の冷たさが体を伝っていき、喉をごくり――鳴らした。
「一応、聞いてといてあげるよ。君のお名前は?」
「…………」
「答えてくれない?」
「聞いて、も……あなたに、得はない」
「ん~? 損得なんか考えなしに、何か君、普通だけど何となく面白そう」
(おもしろ、そう)
男の言葉からは、銀の瞳の奥に秘めているものを読み取ることは出来ない。
「どういうことですか」
「そのままの意味」
この男の真意を読み取ってしまったら、きっとこの奥深くにある闇から抜け出せなくなる――そう感じる。
「ん~なかなか、教えてくれないんだねぇ~。まぁいいよ……」
「…………」
「じゃあ、次逢った時にでも教えてよ」
「つ、ぎ……?」
不敵に微笑む男の瞳を凝視していると、突然背後に気配を感じとる。
チャキッ
「君の王子様がお怒りのご様子だから」
指が未だ添えられたままの状態で瞳だけを動かし見たら、男の首元に鋭く光る刃が押し当てられていた。
「――その汚れた手を、今すぐ彼女から離せ」