君がいるから
時は3日前――。
* * *
アディルさんの腕の中で、どのくらいこうしているんだろう。緩められることのない腕の強さ、心地良い温かさ、トクントクンと伝わってくる心音。時折、吹く少し冷たい風に、閉じていた瞼をそっと開く――。
「――ア、ディル、さん」
ふいに、呼びかけた私の声に、少しアディルさんの体が揺れたのを感じ、ゆっくり私を包んでいてくれた腕の力が緩められた。視線をふと上げ、紅く――吸い込まれてしまいそうな瞳と出合う。でも、何だか急に恥ずかしくなって、すぐにまた視線を下げた。
「ぁ、あの」
「怪我」
同時に重なったお互いの声、言葉と一緒に私の顔を覗き込むアディルさんは口端を上げた柔らかな表情。
「してない?」
ものすごい近い距離に、それはそれは――綺麗な顔が。
ドクン ドクン ドクンッ
高鳴った胸は速さを増して、増して、増し続け、きっと一気に紅潮したであろう自身の顔を見られたくなくて思わず背ける。
「あーきなっ?」
「うぇっ!」
「けーが、してない?」
背けた先に再び現れた端正な顔に、もうこれ以上無理だと思う程の脈の速度の限界に達してしまいそうで、魚が水にとけている酸素を体の中に取り入れるように、口をパクパクと動かしてしまう。
「えっ……あっ! しっしてません、してません!! だから、そのっ顔の距離をもうちょっと……」
どんどん、どんどん、間近に迫ってくるアディルさんとの距離を取ろうと、体が自然と後ずさる。というよりか、私の心臓がもうこれ以上持ちそうもないのが一番の理由だ。だから咄嗟に出た行動は。
「あきな」
「……なななっなんでしょう!?」
「この腕は……?」
視線で示された先、きっと伸ばされた私の腕がアディルさんの胸を押していることを指しているんだろう。
「だだだだってっ、ちっちっちかっ」
「ん?」
一度首を傾げ、その内いきなり一気に覆いかぶさるように、私との距離をつめてきたアディルさん。
(もう、それ以上近づかないでー!! しっしっしっ心臓が壊れ……破裂するっ)
目の前の世界が、まるでグルグル回る感覚に襲われかけた時――。