君がいるから
Ⅰ.日常
「……き……な」
「あきな!?」
「はい!!」
突然、耳元で響いた大声に勢いよく顔を上げたものの、視界がぼやけ瞬きを繰り返す。
「あんた、大丈夫?」
心配気な声が頭上から降ってきて、視線を上げたのち焦点を合わせた。毛先をゆるく巻いた茶金髪のロングヘアに整った顔立ち、パッチリ二重瞼の大きな黒い瞳が私に向けられている。
「あれ……由香?」
「珍しいじゃない? あきなが学校で居眠りするなんてさ」
まだあまり開けきられていない瞼を、指先で抑えてから擦る。
「何回、起こしても起きないんだからー。あんたは」
親友の由香にそう言われて辺りを見渡すと、いつも男女共に騒がしく賑やかな会話がない教室の静けさ漂う中、私はのん気に口を開く。
「あれ? 皆どこに行ったの? 次、体育だったっけ?」
まだ眠気眼の私はすっとんきょな声で由香に聞く。
「はぁ~? あんた完全に寝ぼけてる」
「へ? 何?」
大きなため息と呆れた表情を浮かべる由香に首を傾げつつも、まだ眠気が飛んでいない私は大きな欠伸をし、机につっ伏す。
「ねぇ。夜ちゃんと寝てんの?」
「うん? ちゃんと寝てるよ……。昨日は父さんが夜中に一旦帰ってきて、それから夜食作ったりしてたら、何だか目が冴えちゃって。うとうとしたのが朝方だっただけ」
「ふ~ん、そう……」
ふと顔を上げたら、由香の心配そうに私を見つめる表情に私はにっこり笑む。
「何でそんな顔してんのー。私なんてそんな大変なことしてないよ。働きながら家事やったり、子育てしたり、世の中には私よりも、たっくさん頑張ってる人達もいるんだよ?」
「いや……それは、まぁ」
「私はたぶん受験もしないと思うし。受験するにしてもちょっとギリギリだけど。まぁその分、皆よりかは気持ち的に楽だもの。でも勉強はしないと、成績落したら父さんが心配しちゃうだろうから、もっと頑張らなきゃねっ」
えへへ――まだ眠気が取れていない顔を更に緩めた。