君がいるから
突然、髪を引きちぎろうとするかのような力で掴み、蹲ってしまうジン。その出来事に、私もアディルさんも驚きのあまり一瞬、固まってしまった。けれど、悶えるジンに慌てて私たちは落ち着かせようと、ジンの体に触れる。
「王っ!! どうなさったんですか!? 王っ!!」
「ぐぁ……おも……いだ、せない……あたまがっ」
「ジン、無理に思い出さなくていい!」
「な、んなんだ……この……痛みは、ぐはっ。あ……あたまが……われ――」
一体、この人の中で何が苦しめているんだろうか。油汗を浮かべ苦痛に歪ませる表情、体力が消耗し切っているジンの身体。私もアディルさんも不安と心配で、それ以上ジンに言葉を掛けることは出来ない。
「――とにかく、体を休めさせなくては……あきな」
「っはい」
「君も一緒についてきて」
一度こくりと頷いて応え、アディルさんはそれを見取って、広い背にジンを乗せ立ち上がった。ジンの瞼はうっすらとしか開いておらず、アディルさんに背負われ、ぐったりとその身を預けている。
「ゆっくり、進んで行きますから。もし気分が悪くなったら遠慮せず、仰ってください」
「……あ、ぁ。アディ……す、まな、ぃ」
「何、言ってるんですか。あなたは私に詫びることなど一つもございませんよ。あきなは俺の後からついてきて、王に少しでも変化があったら教えてほしい」
言葉に出す代わりに再び私が頷くと、アディルさんは微笑み返しゆっくりとした足取りで歩み出す。その後に続いて、私も歩き出そうとした時、ふと私の視界の隅に入った影に視線を移す。
「あれ、は――」
白灰の髪、固く握り締めたままの剣。
(アッシュさん……?)
その場に立ち尽くしたまま、微動だにしないアッシュさんの背中がある。どこか一点を見つめ続けるアッシュさんの背中は――。
「あきな? どうかした?」
先を行っていたアディルさんにふと名を呼ばれ、視線を元に戻す。
「大丈夫?」
「すみませんっ。大丈夫です」
「そう……。そこ、足元気をつけて。なるべくあきなの負担にもならないよう進んで行くつもりだけど、脆くなってる建物もあるから、十分に周りに注意して、いいね」
「はいっ」
「ジン王! 団長! 副団長!!」
突如、辺りに響き渡った大きな声に、私もアディルさんも驚き動きを止めた。