君がいるから


 突然、髪を引きちぎろうとするかのような力で掴み、蹲ってしまうジン。その出来事に、私もアディルさんも驚きのあまり一瞬、固まってしまった。けれど、悶えるジンに慌てて私たちは落ち着かせようと、ジンの体に触れる。

「王っ!! どうなさったんですか!? 王っ!!」

「ぐぁ……おも……いだ、せない……あたまがっ」

「ジン、無理に思い出さなくていい!」

「な、んなんだ……この……痛みは、ぐはっ。あ……あたまが……われ――」

 一体、この人の中で何が苦しめているんだろうか。油汗を浮かべ苦痛に歪ませる表情、体力が消耗し切っているジンの身体。私もアディルさんも不安と心配で、それ以上ジンに言葉を掛けることは出来ない。

「――とにかく、体を休めさせなくては……あきな」

「っはい」

「君も一緒についてきて」

 一度こくりと頷いて応え、アディルさんはそれを見取って、広い背にジンを乗せ立ち上がった。ジンの瞼はうっすらとしか開いておらず、アディルさんに背負われ、ぐったりとその身を預けている。

「ゆっくり、進んで行きますから。もし気分が悪くなったら遠慮せず、仰ってください」

「……あ、ぁ。アディ……す、まな、ぃ」

「何、言ってるんですか。あなたは私に詫びることなど一つもございませんよ。あきなは俺の後からついてきて、王に少しでも変化があったら教えてほしい」

 言葉に出す代わりに再び私が頷くと、アディルさんは微笑み返しゆっくりとした足取りで歩み出す。その後に続いて、私も歩き出そうとした時、ふと私の視界の隅に入った影に視線を移す。

「あれ、は――」

 白灰の髪、固く握り締めたままの剣。

(アッシュさん……?)

 その場に立ち尽くしたまま、微動だにしないアッシュさんの背中がある。どこか一点を見つめ続けるアッシュさんの背中は――。

「あきな? どうかした?」

 先を行っていたアディルさんにふと名を呼ばれ、視線を元に戻す。

「大丈夫?」

「すみませんっ。大丈夫です」

「そう……。そこ、足元気をつけて。なるべくあきなの負担にもならないよう進んで行くつもりだけど、脆くなってる建物もあるから、十分に周りに注意して、いいね」

「はいっ」

「ジン王! 団長! 副団長!!」

 突如、辺りに響き渡った大きな声に、私もアディルさんも驚き動きを止めた。


< 300 / 442 >

この作品をシェア

pagetop