君がいるから
「何?」
「城の方角からだ」
目を凝らし、眉間に皺を寄せるアディルさんを横目で見やり、再び前方へと戻す。
「団長!! 副団長!! 急いで……急いで城に戻って下さい!! たっ大変なことにっ」
酷く慌てた足取りで、息を切らした騎士達数人がこっちに駆け向かってくる。その様子は只事ではないと、2人顔を見合わせた。
「あきな。行こう」
アディルさんが口にし、私が返答する前に駆け寄ってくる騎士達の元へと歩みを進めた。ジンに負担をかけないようにしながらも、彼らの元に辿り着こうと早足に。すかさず私もアディルさんの後を辿って行く。数人の騎士達はそれぞれ二手に分かれ、一方はアッシュさんの元へ、もう一方は私達の元にたどり着き、肩を上下に揺らし荒々しく呼吸を繰り返す。こちらに向かって来る2人の身形は、顔、腕、足に傷が数多くあり、傷口からは血が滲み痛々しい姿。
「一体、何があった!?」
「たっ大変……なんです、はぁはぁはぁっ」
青ざめた表情でそう一言、2人の騎士の膝がガクッと折れ、地に落ちてしまう。
「大丈夫ですか!?」
私は、咄嗟に騎士の傍らへ駆け寄り背に掌で触れる。
「おぃ……話せ……。何があった……」
頭上から声がして振り仰ぐ。アディルさんの背に体を預けてるジンが、閉じようとしている瞼を必死で開き騎士を見つめる。
すると、私の傍らにいる騎士の体が微かに揺れたのに気づき、視線を戻す。ぬかるんだ土を強く握り締め、おもむろに1人の騎士の口が開く――。
「ギ……ルス……様達が」
一度キュッと口を噤み、地を見つめ続けていた視線をゆっくりと上げゆく騎士。ジンとアディルさんへ辿り着き、もう一度グッと微かに震えた唇を強く噛み締めた。
「何者かに――」
――虐殺されました――
(な、に――今、なんて?)
「ギルス様方の……その姿は無残に切り裂かれていて、見るに堪えませんでした……」
(待って――)
「その中で救いだったのは、唯一長様お1人だけは影に隠れるようにして見つかり、微かに息があったので急ぎシェヌ爺の処へ――油断は許されない状態だと……シェヌ爺はおっしゃっていて……くっ」
言葉を紡いでいく騎士の声音は、震え――最後にはきつく閉じた瞼から一筋に流れていく涙を見せまいと、顔を伏せた。
(待って――何があったと……言ったの?)