君がいるから
――ドンッ!!
再び体を強く打ち付ける。でも今度は冷たい床じゃない。
衝撃によろけそうになった体を強く引かれ、布越しに感じたのは人の手だということ。
「女?」
声は男だとすぐに気づく。下を向いていた視線を徐々に上げて、声の主を確認したかった。
この人も背が高いのだろう、秋山を見上げた時のように頭が後ろへ傾き、後ろ髪がさらりと落ちる。そして視線を上げきった時に出合った。
――漆黒の瞳。
男の背後から眩しいくらいの太陽の光。
襟足が長く、全体的に長めなキャンパスウルフの髪は、瞳と同じ漆黒の色を光が照らす。金や刺繍で装飾された黒のジャケットの前は全部開かれ、その下に身に着けているシャツの襟は第2ボタン辺りまで開かれ、布地の下からは髪色とは真逆の白い肌が垣間見える。
(綺麗な顔立ち)
まるでおとぎ話に出てくる王子様だと思った――。
今だ私に視線と絡み合っている、若干細めな目元の奥にある瞳。まるで時間が止まってしまったかのように、私はその瞳に見入ってしまっていた。
何を思うのでなく、ただ……瞳を逸らせなかった――。
「王!!」
止まっていた時が動き出したかのように、1人の兵士の声で我に返り、男から力いっぱい身を離す。目の前にいる男の背後を見遣ると、何十人といる兵士が息を上げながら鋭い視線を私へと一点に集中させていた。
「もうっいいかげんにして!! 私は何もしてない! それなのに……」
そう叫び、再び踵を返し部屋の中に走った。
「おい!!」
でもすぐにさっきの男に、腕を掴まれ止められてしまう。私は捕まりたくない一心で、必死に振り払おうと腕を捩り剥がそうと躍起になる。それでも、やっぱり男の人の力に到底敵うわけなくて、その悔しさや寂しさからか涙があふれ出てきた。
(どうして――? 何で? 私は……ただ――)
視線をふいに向けた先には、あの男とお爺さん達が静かにこちらを様子を伺っていた。