君がいるから
* * *
(甘い香り――?)
「……あれ……私」
視界にまず飛び込んできたのは、光輝くシャンデリア。
(自分の部屋にシャンデリアなんてないのに)
しばらく眩しく感じるシャンデリアを薄目で見つめ、何回か瞬きを繰り返した。
最初はうっすらとしか開いてなかった瞼が徐々に上がっていき、視界が鮮明に映り出して勢いよく体を起こした。
そしてギュッと硬く握り締める自分の拳に気付き開くと、掌には母さんの指輪が明かりに照らされた。ホッと肩から力が抜け少し眩暈がしたけど、ゆっくりと瞳を動かして辺りを見渡す。
「そうだ……ここ……私……」
途切れ途切れに言葉を発する。現実なんだってことを1つ1つ確認するように――。
「……あれから、私どうしたんだっけ」
真っ白いシーツに視線を落とし額に手を添え、現在までのことを思い出そうと試みる。
(母さんの指輪を拾って、アディルさんが来てくれて、それから――)
「――ぐっすり眠っていたよ」
真っ白いシーツに落ちてきた影、そして聞き覚えのある声が耳に届き、はじかれたように見上げた。
「アディル……さん」
声の主の顔を確認し呟いた時、にっこりと笑み私を見下ろしているアディルさんがいた。
「具合はどうですか?」
そう問いかけながら、ベットの側にある椅子に腰を下ろした。
「へ……平気です」
私と目線が丁度同じくらいになり、綺麗な紅い瞳とまっすぐ視線が交じり合ったものの、何だか恥ずかしくなり、すぐに顔を逸らし俯く。
すると、ギシッとベットが音をたてたかと思えば、長くてキレイだと思える手の甲があり、更にベットが軋む音が鳴って沈むと同時に、私の顔を横方から覗き込んでくる端整な顔が覗き込んできた。
「本当に?」
耳元で男の人の声が息が当たり、そして甘い匂い鼻腔を擽る。ベットに乗り上げ体を寄せ合うようにするアディルさんが、近すぎるあまり更に恥ずかしさが増す。
「ほっ本当に大丈夫ですからっ」
恥ずかしさから声が上擦り、アディルさんから見えないようにギュッとシーツを握って体に力が篭る。
(あー……もう)
熱が集中した顔はきっと――っと想像する。こんなにも息遣いが聞こえてしまう程の距離に、アディルさんの綺麗な顔があるから。