君がいるから
「そうですか。よかった」
本当に安心したというような口調で、私から離れていく。離れると同時に、私も体から力が抜けて握っていたシーツを離すと、その部分だけが濃い皺がくっきりと残されていた。
(相当強い力で握っていたんだな)
「ベットから出られますか?」
今度は距離を取った場所で問いかけられ、アディルさんに視線を移す。ポットの注ぎ口から湯気が立ち上り、小さな音をたてて茶透明の液体をティーカップに注ぐアディルさんがいる。
「一緒にお茶でも飲みませんか。温まりますよ」
アディルさんの柔らかな笑みに自然と口元が緩んで首を縦に振り、ゆるりとベットから出てソファーへと移動する。
部屋中を見渡すと、アディルさんに案内された部屋だと気づき足が止まった。
「どうしました?」
その場で立ち止まって、なかなか座ろうとしない私を不思議に思い、問いかけるアディルさんは首を傾げている。
「あの……私、ここに入ったらいけないんじゃないんですか?」
女性に言われたことを思い出し、問いかける。
「城の者には言っておきましたし、もうあのようなことはありませんから。安心して下さい」
アディルさんは、私があの時何を言われたのか知っているような口ぶり。そう言われてもなお、その場に立ち尽くしてる私を見て、少し眉を下げる。
ふぅ、と息を吐くのが聞こえたかと思うと私の傍に寄り、まるで壊れ物でも扱うように手をアディルさんの掌が包み込み、ソファーへと誘い肩をそっと押されて座らされた。
ティーカップとお菓子が盛ってあるお皿を置き、私と対面になるようにアディルさんが腰を下ろす。置かれたカップから温かな湯気が、そして花のような香りが漂う。
「喉、渇いているでしょ。遠慮せず飲んでください。熱いので気をつけて」
「……はい。いただきます」
カップを手に取り、数回息を吹き掛けてそっと縁に口をつけた。紅茶に似たお茶が、少し熱いと感じながらも喉を一気に潤し、それと同時に体全部にも行き渡り、甘い味が落ち着かせてくれる。
――気づけばお茶を飲み干していた。