君がいるから


 鋭い眼光のギルとは違い、冷静な面持ちのジン。両肘をテーブルに乗せて指を絡ませ口元を寄せた。

「ならば、交換条件だ」

「交換条件?」

 突然の提案にこの場にいる皆、一斉にジンへと目を向ける。

「あぁ。我々が望むものはあきなだ。その代わり、そちらの望むものを何でもくれてやる」

「へぇ。何でもくれるの?」

 ウィリカが目を薄開きで顎に手を添える。

「ギルよ、何でもだってよ。酒一生分もらっちまうか~」

 一生分のお酒でも想像しているのか、おじさんは目を輝かせながら天井を仰ぐ。すると、ギルはテーブルに乗せていた足を下ろして、腕を組んだまま右へ少し頭を傾けた。

「この国の領土――つったらくれんのかよ。国王さん」

「それが望みか」

「だと言ったらくれんのかって聞いてんだ」

「それが望みならば」

 そのジンの言葉に、私とアディルさんは身を乗り出す。

「王!!」

「ジン、やめて! 私一人の為にそんなこと――」

「お前達は口を挟むな」

 ジンの静かな一喝に私達は口を噤む。ジンとギルは互いから視線を決して逸らさない。

「そんなにこの女が大事か」

「あぁ」

「探せば、その程度の女なんかすぐに見つかるだろ。ってか、国王さんならそいつより、もっと色気のある女がいるだろうよ」

(ちょっと……その言い方って結構失礼でしょ)

「そうかもな。だが、俺達には――この国にはあきなが必要だ」

「っという事は、あきなはこの国の何かを握っているんですか?」

「さぁな」

 ウィリカが2人の間に入り、言葉を交わす。ジンとずっと視線を合わせてた筈のギルがふいにこちらへ向き、驚きのあまり思わずすぐさま逸らす。

「ギルよ、何を望むんだ? おりゃ、この国の地酒もいいと思うぜ」

「おっさん、黙ってろ」

「……うぃ」

 ピシャリと言葉を切るギルに、おじさんはうな垂れ、そのままテーブルに頭を預けてしまう。

「何でもいいんだな」

「あぁ」

「なら、最初の契約が終わってから、無条件で俺様たちをこの国にいさせろ。期間は一切なしだ」

「それでいいのか」

「こっちも目的が変わったんでな。安心しろよ、別にこの国をどうにかしようとは考えちゃいねーからよ」

「目的……か。アディル」

「はっ」

 ジンが名を呼び、アディルさんはその場から離れて、奥から金色に輝くトレーを持ってジンの傍らへ。トレーから1枚の紙と羽根付きのペンをジンの前に置く。ジンはペンを取り、先を黒のインクに少し浸し、紙にペンを走らせた。それを私はただ黙ってペン先を追い掛けた。


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