君がいるから
ペンをテーブルに置き、すかさずジンが口を開く。
「アディル」
再びアディルさんは名を呼ばれただけで、主に向けて一礼をし、紙を裏返し手に取って、トレーに乗せてそれをギルたちの元へ運んでいく。傍らに立ち、ギルの前に紙と羽ペンが置き、アディルさんは数歩下がる。
「俺のサインを入れた。交換条件も共に書いている、確認し同意するのであればサインを」
「ウィリカ、これ読め」
「はいはい。いつになったら、独り立ちしてくれるんだか」
ギルは紙をテーブルの上で滑らせ、ウィリカへ手渡す。ウィリカは面倒そうに返事をしながらも、手に取った紙に書かれた内容を目で追う。
「たしかにあきなと交換に俺達を無条件でこの国にいることが記されてるよ。ちゃんと無期限で。それに酒も、修繕の協力に感謝を込めて贈呈するともね」
彼等の背後にるアディルさんが苦渋の表情で、何か言葉を発しようとしたけれど、ジンを見遣り言葉を喉の奥に飲み込んだ。ギルはウィリカから紙を受け取り、乱暴に手に取ったペンを走らせる。筆圧が強いせいか、ガリガリと紙を通り越してテーブルを削っているような音がたつ。
「おらよ。これで契約成立だな」
「あぁ」
「用件はこれで終わりか」
「あぁ、以上だ」
椅子の脚音をたてて立ち上がったギルに続いて、2人も立ち上がる。
「こんな紙にはかかねぇが、目的を達するまで俺様たちはこの国のもんには手を出さねぇ」
「そうか」
「達したときは何すっかわかんねぇけどな」
ギルは捨て台詞を吐いて、ウィリカ達に顎で扉へと促す。そうして3人が私達に背を見せた時。
「そうなった時は覚悟しておくんだな」
ジンの声に反応し足を止めたギルは、強気に鼻で笑い返し、再び歩き出す。少し離れた奥の扉が閉められる音が響いた。数秒も経たないうちに、今度は私が騒々しく椅子の音をたてて立ち上がる。
「あのっすいません。ちょっと行ってきます!!」
「あきな!?」
「すぐ戻ってきます!」
駆けだした私の腕を、向かい側にいたアディルさんが駆け寄り、掴んで止める。
「どこに行くの」
「あっあの……ギル達と少しだけ話したいと思って」
「何故?」
「自分の捲いた種でもあります。彼等にはちゃんとお礼も言ってません」
「お礼? 君は連れ去られたんだ。お礼を言う必要がどこにある!?」
掴まれた腕に圧迫感と鈍い痛みが走り、苦痛に顔を歪める。