君がいるから
「ごめん……」
腕から圧迫感が和らぎ、そっと離される。見上げると、アディルさんは気まずそうに視線を逸らした。
「たしかに無理やりというか、船には乗せられて少し怖い思いもしました。でも……助けてももらったんです」
「…………」
「お礼をちゃんとまだ伝えられてません。だから、その一言をちゃんと自分の口から伝えてきます」
アディルさんの前で深くお辞儀をして、その場を離れギル達を追う。アディルさんの視線を背中で感じながら――。
* * *
「ギル!!」
自分の声が思いのほか響き渡り、すぐにギル達は足を止めてくれる。部屋を出て間もないはずなのに、3人はあの部屋から随分と離れた場所にいた。今走って来た場所が1本道でよかったと安堵する。
「ごめんっちょっと待って」
彼らの前に辿り着き、軽く肩で息を整える。2人は振り向き待ってくれているが、ギルは足を止めているものの振り返りはしない。
「どうしたの? 僕達を追いかけて来るなんて、大事な用?」
「おじょ~ちゃんも、一緒に酒飲むか~い?」
「いえ……まだ未成年なので、お酒は遠慮しておきます」
苦笑を浮かべながらおじさんに頭を軽く下げ断り、まだこちらを見ようとはしないギルの背中へ視線を移す。小さく深呼吸をしたのち、口を薄く開く――。
「ギル。あのね、ギル達にお礼と……ごめんなさいを言いに来た」
「…………」
「まず――約束を破ってごめんなさい。シャルネイに戻らせてくれたのに、何も返せなくて。それと、ありがとう」
「ありがとうって、何に対して?」
私が言葉にすると、ウィリカが柔らかく微笑みながら問う。
「ここに戻らせてくれたことと、それから助けてくれた事に」
「さっき、あの王様も言ってたけど。君がここに戻ってくることは当たり前のこと。まっその君を連れて行ったのは僕達だけどね」
「まぁ、それは、そうですけど」
「っで? 助けたって何から俺達は君を助けたっけ?」
からかいが混じったような物言いのウィリカ。当の本人達は私が口にしたことを言わなくとも理解しているとは思うのに。
「あの銀髪の人から助けてくれた。レイも安全な場所に連れ――」
「てめーを助けたわけじゃねーっ」
途端、冷たい声色のギルの声で遮られ、息を飲み込んでしまった。