君がいるから
小さな靴音をたて、上半身を捻り振り返るギル。でも、ギルの茶がかった瞳は鋭く睨みつけて。
「ギ……ル」
「俺様がお前を助けただ!? んなわけねーだろっ。俺様は俺様の獲物がいたから、ああしただけだ。勘違いすんな」
あの時と一緒。船の食堂で見たあの冷たい瞳。
「何が約束だ。てめーみたいな女、この世界には腐るほどいんだよ」
「…………」
「もうてめーには、もう用はねぇ。気安く話かけんな」
そう言葉を切り、ギルは再び背を向け大股で歩き始めた。ウィリカもおじさんもギルに続いて行く。遠ざかっていく背中を目にして、両手を胸の前で握り締める。ギルの態度が冷たいのは、私のせい。
「ギル!」
追いかけることはせず、遠ざかる背中に大声で叫ぶ。
「腕の怪我、痛むようだったらシェヌお爺さんの所へ行って! 怪我早く良くなるように、無理しないでね」
通路の奥で曲がり角を曲がり、通路の奥へと消えていく。自分の声が虚しく乾いた空気に響き渡る。
* * *
「あんな態度取った理由は?」
「おりゃも聞きたいね。おじょーちゃん。泣いちまってんじゃないかー?」
頭の裏に腕を上げ両手を添えるおっさんとウィリカが、並んで歩むギルへと問いかける。目を細め、眉間に皺を寄せて頭を乱暴に掻き始めるギル。
「だぁーもうっ!! イッライラすんな、こんちくしょー!!」
叫び声を上げるギルの態度に2人は視線を合わせ、疑問符を浮かべる。
「苛々の素はあきな?」
「あぁ!? んなこと知るか!!」
「理由も明確じゃないのに苛々して。僕達に当たらないでくれ」
「苛々すんのに理由がいるか!」
ウィリカはギルのとっばちりを受けないよう、足を速め出す。おっさんも同様にギルと距離をとり始めてしまう。ギルはそんな2人を構うことはせず、1人苛々を募らせていく。
(理由? 一つ明確なことがある。あの金髪野郎の瞳だ。この国の頭と話をしてる間中、俺様のことを挑発するように睨み続けやがって)
(少し昔ならとっくに――俺様も少しは大人になったってことか?)
あの女の声を聞いて姿を目にした途端、言い知れない靄が襲った。
「あぁー!! 胸くそわりぃ、ちっきしょー!!」