君がいるから
私の様子を見ていたアディルさんは何も言わずに立ち上がり、私の手からカップを取って再びお茶を注ぎ足してくれた。
「お口に合ったようでよかったです。僕はこれが大好きなんですよ」
柔らかな笑みを浮かべながら、淹れてくれたカップをテーブルへ。
そして再び、目前に腰を下ろしたアディルさんが一口お茶を含むと、紅の瞳が真っ直ぐ私の姿を捉え真剣な面持ちで口を開いた。
「さて……あきなに聞きたいことがあるんだ。――君は何処から来たの?」
予想もしていなかったわけではない質問に一瞬体が硬直し、アディルさんから視線を逸らす。
なかなか口を開こうとしない私を急かす様子もなく、ただ私が答えるのを待ってくれているアディルさんに、膝に置いた両の掌でグッとスカートを握り締める。
「に……日本の東京から……」
「ニホン? ト……ウキョウ?」
私の言っていることが理解し難いように、言葉を反復しながら顎に指先を添えて首を傾げている。
「聞いたことがない国の名だ……。それがあきなが住んでいる国ですか?」
「はい。アディルさんここは一体何処なんですか? 何て言う国ですか?」
本当はここが地球ではないことは何となく頭では分かっているのに、アディルさんに問いかけずにはいられない。心のどこかで、地球であってほしい――そう、願っている自分がいる。
「ここはシャルネイ国。そして、ガディスという世界です」
(シャルネイ? ガディス?)
聞いたことのない国の名。
ギュッと更にスカートを強く握る。本当に、見知らぬ土地へ来てしまったことの事実にショックを受けた。
頭では分かっていたことだとしても――。
「……あきな? 顔が真っ青――」
「今すぐ私を帰して!! 家に帰して!」
問いかけてきた優しい声に私は、アディルさんに向かって、強い口調でそう言い放っていた。
きっと驚いているんだと思う。でもどんな顔をしているのかはっきりと見えない。視界が……見えているもの全てが溢れ出たもので滲んでいたから――。