君がいるから
「ん?」
「レイはお前に懐いているようだな」
「レイが? 私に!? 懐いてるって……そんなことないと思う」
(あんたって呼ぶし、常に眉間に皺寄せて嫌がってるような態度をとられているし、さっきだって不機嫌そのものだった)
「うん、それは無いと思います」
「そうか?」
「そうだよ? だって、私がいると迷惑そうな顔したりするし、あの話合いの前だっていきなり不機嫌になっちゃって」
思い出しながら話をしていると、ジンは喉を小さく震わせて笑う。私は疑問符を浮かべてジンを見遣る。
「あれ、見てみろ」
「あれ?」
ジンが指差す方向を辿っていく――騎士さんの傍に少し中が陰っている場所に、もう一人の影。よく目を凝らし――確認した途端、大きく目を見開いて声を上げてしまう。
「レイ!?」
隠れるように壁の影の中で、騎士さんの傍に立っているレイの後ろ姿。
「レイの部屋ってこっちの方じゃないよね」
「だから言っただろ」
あの行動1つだけで、果たして懐いてると言っていいものなのか。今までの私に対する態度から見て、そういう感じに取れない気がするのは私だけなのか。
「懐いてるとはまた違うと思う……んだけど」
「懐くとは少し違うか……なら、興味があるんだ、お前に」
「興味?」
「レイはあの時から喜楽の感情を忘れてしまったかのように、表さなくなった。部屋の外に出る事自体――ああやってあの場にいることが、俺達にとっては驚くべきことで。ましてや、出会って日も浅いお前に対して不機嫌な顔をするってことは、少なくとも関心や興味を持っているんだろう。そうは思わない者には、目を合わそうともしないし、一言も発さないからな」
ジンの言葉に思い出すジンとレイのご両親の話。出会って少しの時間しか一緒にいないけど、少なからず私でも役に立ててるのかな。そうだといいな――心中で呟く。
「俺の後ろを気づかれないようにと、付いてきたらしいが、丸分かりだ」
「ふふっ。今も隠れきれてないもんね」
2人で笑い合い、レイの姿を見遣る。ちらり――こっちを見たレイは、すぐに顔を背けてしまう。
「なぁ、あきな」
「はい」
「一人で抱え込むな」
そう言ってジンの大きな掌が、後頭部に添えられた。
「お前には俺達がいる。それだけは忘れるな」
「……ジン」
数回後頭部を掌が優しく撫でるように弾んで、ジンは再び歩み始め、そっと優しさは遠ざかっていく。その背中を見つめ、まだ名残がある後頭部に自分の掌を添えて髪を軽く掴む。
「ありがとう」
届くか届かないか――ジンの背中へ呟いた。