君がいるから
Ⅺ.封じた記憶 ―前―
空に広がっている雲の向こう側で、赤オレンジ色が陽が沈む前よりも更に存在感を主張し始めた頃――。
「それじゃ、レイまた明日ね」
「…………」
「明日もちゃんとレイに会いに来る。約束」
レイの部屋のドアの前に2人で立っている状態。私はそろそろ用があるからとレイの部屋を出ようとした所、背後から付いてきた。昨日まではこんなこと一度もなかったのに。
「明日は天気がよかったら、花壇に花を植える手伝いしに行こうよ! 今日は外行けなかったから」
「…………」
笑みを浮かべて話掛けても、眉間に皺を寄せてただ私を見ているだけのレイ。昼間と違ってどうも怒ってるわけでは無さそう。部屋を出てもいいとは思う――けれど、このままだと付いてきかねないなと頭を悩ませる。
(あっ!)
ふと思い浮かんだある事に声を上げる。目の前にいるレイに向かって腕を伸ばし、背中へそっと回す。そして、挨拶のように軽く抱きしめ、背中を数回掌を弾ませた。
「夜更かしせずにちゃんと寝るんだよ。明日必ずここにまた来る」
そうレイに言葉を掛け体を離す。レイがどんな表情をしているのかを確認せずに、扉へ向き直り部屋の外へと出た――。
「ふぅ……」
「あきな様、もうレイ様はよろしいのですか?」
「はい。レイの夕食はジョアンさん達にお願いしてありますし」
部屋の外で待っていてくれた騎士さんと話ながら歩き始める。
「これからどちらに向かわれるのですか?」
「食堂です。ジョアンさんからシャンロの伝言を聞いたので」
「シャンロとは、あの盗賊の中にいる――たしか栗色の猫っ毛をした少年の事でしょうか?」
騎士さんは自分の頭ら辺に指先を持ってきて、猫っ毛を表しているのかくるくると指を回し問いかけてくる。
「そうです。その子が今日は食堂で一緒に食べようって」
「あの子はとても人懐っこい子ですね。自分は2・3度程しか会話していませんが、周りの騎士たちにも可愛がられていました」
「たしかにそうですね。ちょっと、おっちょこちょいな面もありますよ。ほっとけない部分もあって、とても可愛いです」
騎士さんと会話をしながら、食堂へと歩みを進めた――。