君がいるから
* * *
テラスでジンと会話した後――。
ジンとレイと3人並び、その前方に騎士さんがいて皆でギル達と話合いをした場所へと戻ったのはいいけれど、ジンは行く場所があるからと1人でどこかへ行ってしまった。中へとりあえずレイと2人で入り、テーブルの方へと進んだ。その場には椅子に腰かけ、いつも見る無表情ではなくどこか悲しげにテーブルを見つめているアッシュさんただ1人。私達が来たことに気づき、またいつもの表情へ戻って椅子から立ち上がり、私たちの元へ。そして、私の目の前に立ち、冷たい鋭い視線で見下ろされる。
「アディルからの伝言だ」
「ア、ディルさんから?」
「夕食が終わったら、部屋に来いだそうだ」
アッシュさんはそれだけ言い、部屋を出ようとした所で騎士さんに何やら話し掛けていた。
「あいつの部屋……あんた行くの」
背後にいたレイの言葉に振り返ったら、眉間に皺を寄せて目を細め私を見ていた。頬が緩みかけていたのを笑いで誤魔化して、私達2人も部屋から出ようと1人で騎士さんの元へ。
その後――どうしようかと悩んでレイと2人散歩でもしようかと思ったけれど、雨が降る可能性もあって、そのままレイの部屋へ戻り掃除を始めた私。レイは部屋の片付けをしている私を何か言うわけでもなく、終始見つめ続けているだけだった――。
私がレイの部屋を出た時、肩の力を抜いて出たため息はこれだ理由。話しかけても、別に、やだ――この一言で返されるだけ。ジンは私に興味や関心があるかもと言ったけれど、レイの態度からしてやはり違うのか、も。
(んー、すごく難しい……)
さっきしたハグはコウキが小さい頃、よく母さんにしてもらっていたこと。コウキは甘えたがりだったくせに、甘え上手じゃなかったというか――なかなか母さんや父さんに強請ることが無かった。でも、母さんが私の髪を結ってる時や、私が抱っこしてって甘えている時――それから泣いてた時だったか。さっきのレイのように、ただじーっと見てるだけで何も話さなかった。それに気づいた母さんが、よくコウキをハグして背中を数回撫でていたのをふとさっき思い出し、思わず行動として出てしまった。
(完全にコウキと重ねて見てるなぁ、私。きっとレイはガキ扱いしたって怒ってるのかも)
それを確認する前に一方的に出てきてしまったから確認の仕様がなく、明日会った時に怒られてしまうかもと小さく溜息をついた。