君がいるから


   * * *


「おねーちゃーん!!」

「うわっ!」

 食堂の扉を開き入った途端に、腰の位置に軽い衝撃。下方を見やると、そこにはくりくりの柔らかそうな栗色の髪、私の腰に腕を回し、にかっと笑む――。

「シャンロー!」

「お姉ちゃん、久しぶり」

「ごめんね、全然顔出せなくて」

「ううん、全然大丈夫!! あのねあのね、夕飯作るの俺も手伝ったんだよっ。だから、お姉ちゃんにも食べてほしくて、おばちゃんに伝言を頼んだんだ」

 瞳を輝かせているシャンロに、自然と一緒になって頬が緩んでしまう。レイの部屋を掃除している時にジョアンさんが来て、シャンロからの伝言を聞かされた。絶対に来てほしい――と伝言を聞いたけど、こういう事だったんだと1人頷く。

「そっか。今日はシャンロの隣でごはん食べよう」

「俺もそうしようと思って席取っておいたよ!! こっち、早く早くっ」

「ちょっシャンロ。そんな急がなくても」

 シャンロに手をふいに引かれて、少しつんのめる。急かすシャンロに手を引かれるまま、食事の用意をしているメイドさんや食堂にいる騎士さんたち大人を掻き分けて行く。何処かでぶつかりやしないかと冷や冷やしていた、その時――。

 ドンッ!!

「うわっ!」

 前方をしっかり見ていなかった私は、案の定1人の男性に転ぶまでも無かったものの、派手に互いの体をぶつけてしまった。

「ったたた……」

「お姉ちゃん、大丈夫!?」

「うん……私は大丈夫」

 シャンロが不安そうに私を見上げていて、大丈夫と頭を撫でた。ちょっと肩に鈍い痛みはあるけど、ぶつかってしまった相手に慌てて頭を下げる。

「すっすいません! 私が余所見していたせいで……怪我ないですか!?」

 頭を上げると、そこにはもう見慣れたキッチン担当専用の白制服、鼻下と顎に無精髭。髪はオールバック、お腹がぽっこり出ている体型の真っ赤な顔をした濃い顔立ちの強面の男性が。

(ど、どうしよう……すごく怒ってる)

 もう一度、誠心誠意お詫びをしようと深く頭を下げた。

「本当にすいません!!」

「だだだだっだっだ、大丈夫ですぅ」

「……へ?」

 突然の少し甲高い声に驚いて、ふいに顔を上げたら。強面の男性の顔はごつごつとした両手で覆い隠され、腰を低くして私に何度も頭を下げている巨体。

「わわわわっわ、私のことははは、気にししし、しないで下さひぃ」

 そう言うや否や、強面の男性はあっという間に走り去ってしまった。それも――内股で。


< 375 / 442 >

この作品をシェア

pagetop