君がいるから
「あきな様、大丈夫ですか!? どこかお怪我でもされましたか?」
男性の後姿が無くなってからも、ぽかんっと口を開いたまま突っ立っていたら、護衛してくれている騎士さんが慌てた様子で目の前に。
「あ……いえっ。あの、今……走って行ってしまったあの方は?」
「今の? あきな様とぶつかられた方のことですか」
「はい。あの方は今日まで一度も会ったことがないんですけど。お城の方ですか?」
私がぽかんとしたまま首を傾げ聞くと、騎士さんは肩を少し震わせて笑う。
「ウォルシュタさんにお会いになるのは初めてだったんですね」
「ウォルシュタ……さん? 顔を合わせるのは初めてです」
「彼はこの城のコック長ですよ」
「……え!? コック長!!」
驚きのあまり大きな声を出したもんだから、傍にいた騎士さんたちの視線が一気に集まる。皆が見てる中で恥ずかしくなり、口元を抑えて肩を竦めて視線を下げた。
「あきな様が驚くのも無理ありません。ウォルシュタさんは滅多に姿を現さない人で有名なんで」
「滅多に……ですか?」
「さっきの姿見ましたでしょ? 極度の恥かしがり屋なんです」
恥かしがり屋で滅多に姿を現さない。だから、私と一度も会ったことないんだ。
「でも、コック長という事はキッチンにはいつもいるんですよね? 私何度か行ってますけど、一度だって顔を合わせたことは」
「誰か来ると察知したら、とにかく隠れるみたいなんですよ、ウォルシュタさん。いつもあの体でどこに隠れてるのか不思議に思います。っというか、察知能力が半端ないんですよ」
(ということは、毎回私が行く度に察知して隠れてたって事?)
「あれで、いつもうまい飯作るんですから、すごいですよ」
「ははは……」
たしかにすごいと思う。というよりかは、あの見た目と恥かしがり屋という点に違和感というか、ギャップが。
「さぁあきな様、お席にどうぞ。シャンロ君が待ってますよ」
「え?」
騎士さんが掌で示す方向に、シャンロが眉を下げてじっとこっちを見ている姿が。きっと自分のせいだと思っているのかもしれない。
「シャンロ、席まで案内お願いします」
「ごめんね、お姉ちゃん。俺はしゃぎすぎちゃって」
「ううん、全然大丈夫。ほら一緒にごはん食べよう」
シャンロの掌を取って重ね合わせてあげると、次第にシャンロの表情が戻ってゆく。