君がいるから


「席はあっちだよ。もう準備は出来てるから!」

「はいはい。でも今度はゆっくり行こうね。人もいっぱいいるし、危ないから」

「はぁ~い!」

 2人顔を見合わせて笑いあう。

「あきな様」

 シャンロに手を引かれ行こうとした時、騎士さんに呼び止められる。

「お食事がお済になったら、そのままお席にいらして下さい」

「え?」

「副団長の元までお供しますので」

 騎士さんは軽く会釈をして自分の席へと戻って行く。

(もしかして。アッシュさんが騎士さんに何か言ってたのは、そのことだったのかな)

「お姉ちゃん、行こう?」

「あっうん、ごめんごめん。行こう」

 今度こそシャンロに手を引かれて目的の席まで向かう。



「ここだよ」

「案内ありがとうございます」

 シャンロが椅子を引いてくれて、その椅子に腰掛ける。そうしたら、シャンロも私の右隣にちょこんと椅子に座った。目の前にはたくさんの料理が並べられてる。一品一品、とても食欲をそそられるいい香りが漂ってきて、力を緩めたらお腹が盛大に鳴ってしまいそう。目の前の料理に夢中になっていた、そこへ――。

「あれ、あきな。今日は君もここで食事?」

 呼びかけられ、ふいに視線を上げたらウィリカが私の前の席にちょうど座る所で。

「ウィリカっ」

「昼間はどうも。いつもいないのに、今日はどうしたの」

「うん。シャンロに呼ばれて」

「ふーん。だってさ」

 頬杖を着いたウィリカが私から視線を逸らし向いた先を追う先に、椅子にドスンッと私の隣に座った――。

「…………」

「あっ兄貴!!」

 シャンロが私の横から顔を出して、にこやかな表情を浮かべ呼ぶ。私はというと、少し気まずく感じてしまう。

「……ギル」

「…………」

「さぁーて、食うか!!」

 次々とサーチェ一族の皆が席に着き始め、合図を出すと一気に皆が食べ物を口に運び始めた。私の隣にいるギルは、不機嫌――怒りを含めたような表情を浮かべながらも、ゆっくりと食べ物を口にしていく。

「お姉ちゃん、俺たちも食べよう」

「……うん。それじゃ」

 いただきます――私たちは手を合わせて、言葉を重ね食べ始める。周りは私が初めて目にした時みたいに、賑やかな雰囲気。私とギルを除いて――。

 食事中、ギルと私は一度も話を交わすことも目を合わすことも無かった――。


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