君がいるから
* * *
それから――食事を終えて、騎士さんと共にアディルさんの部屋へと向かった。
コンコンコンッ
「アディル副団長。あきな様をお連れ致しました」
騎士さんが扉をノックして声を掛けたのち、扉がゆっくりと開かれて甲冑を脱いだアディルさんが顔を出す。
「今日一日、ご苦労だったな」
「いえ。まだまだ下っ端の自分があきな様の護衛を任せられるなんて嬉しかったです」
「そうか」
「それでは、自分はこれで失礼致します」
騎士さんはアディルさんに丁寧にお辞儀をし、私へと振り向きにっこりと微笑む。
「自分はこれにて失礼致します。本日はありがとうございました」
「そんなっ。お礼を言うのは私の方です。ありがとうございました」
私にもお辞儀をする騎士さんに慌てて私も同じ姿勢を取る。お互いに数秒間そうしたまま、ふと頭を上げて2人で笑い合う。
「アディル副団長と良きお時間を」
「っ!!」
騎士さんが歩み出す時にふと小声で私に言い、騎士さんはもう一度お辞儀をして蝋燭に照らされた通路の奥へと去って行った――。
「2人で微笑み合うなんて、妬けちゃうな……」
「え!?」
傍に感じる気配と声に驚き、肩が上がる。
そーっと視線を後ろへと移していったら、金の髪が映った瞬間に再び戻す。2人っきりになった空間。そう思ったら急に込み上げてくる緊張感――次第に胸の鼓動が速度を増してくる。
「あきな」
再び耳元に届く――背後からの優しい声音で名前を呼ばれて更に高鳴る胸の鼓動。うるさく感じる鼓動を落ち着かせようと、一つ小さく息を吐きゆっくりと視線を背後へ。
「どうぞ中へ」
あの初めて会った時から変わらない、柔らかな微笑みと眼差し。目の前に何度も私を包んでくれた掌が差し伸べられた。恥かしさが込み上げて俯きながらも、そっと自分の掌を重ね合わせる――。
その時、アディルさんが微かに微笑んだ気がして。静かに手を引かれ中へと足を踏み入れて、扉が小さく音を立て閉じられた――。
アディルとあきなの様子を柱の影から覗き見ている小さな体の持ち主。瞳には闘志を燃やし、両拳を握り締め頬を膨らませながら唇を噛む。
「あの女……」
その言葉を一言放ち、怒りに肩を震わせていた。