君がいるから
「さっ、そこに座って。今お茶を淹れるから」
「……はい」
部屋の中へ入ると、ジンの部屋ほど広くはなく――それでも1人の部屋にしては十分すぎる程の広さ。全ての装飾品も家具もとてもシンプルなものばかり。アディルさんのイメージがまた少し変わった。
部屋中を失礼に思いながらも見渡し、アディルさんに進められた白革のソファーに腰掛ける。
(どうしよう……ふ、2人きりだよね、今。あの、キ……ス、以来2人っきりになるのは初めて)
落ち着けたはずの鼓動は、ますます加速していくばかり。胸の中でどんな顔してればいいんだろう――必死に巡らせる。
「あきな。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
頭上から降ってきた言葉に思わず顔を上げる。そこには、にっこりと微笑むアディルさんがガラステーブルの上に、両手に持った湯気が立つ1つのティーカップを置く。
「そんなに瞳を潤ませて顔を真っ赤にしてたら、あきなを今すぐにでも襲いたくなっちゃうでしょ」
(おっおそ……うっ!?)
アディルさんの発言に一気に体温が上昇。口をぱくぱくと魚のように動かし、自分からも湯気が出てしまいそう。
「はははっごめん、ごめん」
口を開いて笑うアディルさんが、私の頭に掌を乗せて数回弾ませ、私の隣にアディルさんは腰を下ろす。
「やっぱり、あきなは可愛いなぁ」
「アディルさん……か、からかわないで下さいっ」
「からかってなんかないよ。本当は今すぐにでも――って、思ってるのが本心」
「……っ!」
細められた目元。甘く囁かれた言葉。それら全てに私は大きく脈が打ち身を固くする。
「ふふっ。あきなには刺激が強かったかな」
アディルさんは手にしているティーカップを持ち、お茶を一口含む。赤らんでいるだろう顔を俯かせた私の頭に重みを感じる。
「あきな、こっち向いて」
(そんなこと言われても。恥かしすぎて顔から火が出そうだし、頭の中がパンクしてしまいそう)
そうやって自分自身だけで考えこんでいる時だった。とんっ――押された感覚に、一瞬感じた浮遊感の後、背中に軽い衝撃。視線に映るのは、高い白い天井と紅い瞳。さらりと揺れて頬を掠める金の髪の毛先に、くすぐったさを感じる。気づいたら――ソファーの上でアディルさんに覆いかぶされていて。