君がいるから
「ック……ヒック……」
突然、怒鳴ったかと思えば声を詰まらせながら泣き出した私に、アディルさんはきっと困っていると思う。
そう思ったら、何とか止めようと目を擦ったりして涙を拭ったけれど、次から次へと溢れ出て止まってなんてくれない。瞼がヒリヒリして痛い――こんなにも涙が止まらないのはいつぶりくらいだろう。
「あきな」
その声と共に、頭にそっと置かれたものが数回上下に動く。見上げると、少し困ったように眉を下げながら腰を折って、同じ目線のアディルさんが傍で私の頭を撫でている。
「君の不安な気持ちもわかる。胸の中にたまこまないで、吐き出して構わない。それを俺は受け止める。だから、信じてくれないか?」
「……信じる?」
「そう。あきなを元の世界に……必ず帰してあげるから。だから信じて」
「アディルさん……」
まだ頬を伝う涙をそっと長い指先で拭ってくれる。
「今日は怖い思いをさせてしまって、本当に申し訳なかった」
「ア……アディルさんが……謝ることないです」
「いい人達ばかりなんだけど、今ちょっと気が張っていて……本当に申し訳ない」
小さく息を吐くと、アディルさんは体勢を戻し窓の方へ向かう。彼を目で追っていくと、外は真っ暗で昼間見た月が輝きを放っていた。電気を消しても、月の光で部屋全体が明るいんじゃないかとも思う程の光の強さ。眩しいと少し思うものの、何故だか惹きつけられてしまう。その月の光が彼の長い金の髪をより輝かせて見せる。
(綺麗な髪)
思わず見入ってしまっていたら、外を見ていたアディルさんが振り向く。
「涙、止まったみたいだね」
「……え。あ、そういえば……」
くすりと小さく笑うアディルさん。頬を触り、さっきまで頬に伝っていた涙が乾ききっていることに気づいた。
(瞼が熱い……きっと腫れてる。擦りすぎてひりひりする)
「あまり触らないほうがいい。今、氷を持ってくるから待ってて」
そう言い残し、少し急ぎ足で部屋から出て行ってしまったアディルさん。1人になった間に、ポケットに入っていたティッシュで鼻を思いっきりかむ。
「きっと鼻も真っ赤だ……あー、もう……恥ずかしいとこばっかり見せて……」
誰もいない部屋で1人呟き、ソファーに深く座り直して深く息を吸い込んだ――。