君がいるから
「うわっ! 何だか酔っ払った時のうちのオヤジに……似てる」
「何それー!?」
そして何故か、いきなり両手で頬をぷにぷに触れてきた由香が更に。
「いふぁーいっ!」
「あんたの頬っぺってつねりがいあるわ。っていうか、目を完全に覚ませー!」
ぐにぐに思いっきりつねり出し、あまりの痛さにギブアップの声を上げたら、すぐに手を離し鞄を手に取る由香。眉を八の字にしてじんじんと鈍い痛みが走る両頬を撫でる。
(たまに手加減ってものを忘れるんだから、由香ってば)
「あきな! ほら、帰るよ~!」
「へ? だってまだ授業……」
由香の言葉に、再びすっとんきょな声を上げ問いかけた。
「まだ言うか! とっくに終わったわよ。その証拠に誰もいないでしょうが。ったく、今何時だと思ってんの。外見てみなさい」
そう指し示された方へと視線を移すと、校庭には校門へ向かって帰る生徒と、一生懸命汗を掻き運動する部活動の生徒の姿。
(え……っと? 授業が終ってて? 校庭には……あれ…? お昼食べてそのあと授業出て……。ポカポカした陽気にいつの間にか眠気がきて――)
(それに今、この教室にいるのは由香と私以外……誰もいない)
ぼやけていた思考が徐々に覚醒していき――。
「ぅえっ!! いつから寝てた!?」
勢いよく立ち上がり、椅子が転げる派手な音が誰もいない教室に響く。
「んーいつからだっけかな……。たぶん6限目が始まってからかな」
「うそ!?」
そう聞かされ時計を慌てて見遣ると、時計の短い針は4を、長い針は既に8を指していた。
何か忘れてる――そんな気がして頭を抱えて唸りながら必死に鈍い脳内を働かせる。そして、パッと浮かび出たのは今朝の光景。
「ぅあーっ特売!!」
叫び声を上げ立ち上がり、ガタッガタッと音を響かせ机と机の間を乱暴に通り抜けて、由香がいることも忘れ大慌てで教室から飛び出した。
「ちょっとあきな!? と……特売って……何のこと?」
また静けさが戻った教室には、由香が先程まで親友がいた机を見下ろした後、呆れた顔をして1つため息を溢した。