君がいるから
「それじゃ、俺はそろそろ行くよ」
「え……あっはい」
「今日は何も考えずゆっくり眠るといい。これからのことは、明日から一緒に考えていこう」
そう言われ私も微笑み返すと、アディルさんは片方の手でトレーを持って、逆の手で私の頭を軽く撫でてくれた。
「おやすみ」
「おやす……みなさ……い」
挨拶を交わし、扉の方へ向かったアディルさんの背中を追う。この広い部屋に、1人になるのかと思うと少し寂しい気持ちが芽生えてしまう。
部屋を出ようとした所でアディルさんが、急に振り返って互いの視線が交わった。気恥ずかしくて、視線だけをふいに逸らした。
「あきな、そんな寂しそうな顔しないで。1人が寂しいなら添い寝してあげようか?」
「そっ添い寝!? そそそそっそんなことっ」
「いつでも大歓迎だから、遠慮せずに言ってね。それじゃ」
私の反応を楽しんでいるような笑みで、今度こそ部屋からアディルさんは出て行ってしまった。
「アディルさんって……」
扉の方を数秒間見つめながら呟く。そして、改めて1人になった部屋を見回したら、やっぱり広くて自分にはもったいなく感じ、実際の自室にはないものばかりがありすぎて惚けてしまう。
息を盛大に吐き、移動してベットに体を投げると、スプリングが弾む。
「……疲れた」
体を反転させ、右の手の甲を額に乗せて天井を眺めていたら、ずっと強張っていた体からどんどん力が抜けていき、柔らかいふかふかなベットに包まれた。そしてゆっくりと瞳を閉じる――。
「――って、寝れない!」
さっきまで、ぐっすり寝ていたんだから、無理もない。
体を起こしベットから離れ、大きな窓へ近づきそっと開く。ベランダへ出ると、風が吹く度に緑の匂いと花の匂いが微かに風に乗って香りが運ばれてくる。そして、空を見上げたら、あの大きな月が異様な存在感を放っていた。手が届いてしまいそうなくらい、近くに感じる月の光はやっぱり眩しかったけど、でも何故だか見ていると安心出来た。私は夜が更けていく中、空を眺め続けた。