君がいるから
「見慣れない服。聞きなれない国の名前・地名。あきなは時空を越えてこの世界に来た」
「何故、それだけで判断出来る。あの女はこちらの言葉を理解し話している」
「その事は不思議だけど。あの泣き顔も全て演技なら大したもんなんだけどね」
「奴らの手下の可能性も否定出来ない」
アッシュは腰にある剣のグリップをギリッと握った。すかさず、アディルはアッシュの手元をちらりとだけ見遣る。
「心配ない。あきなは敵じゃないから」
「何故、そう判断出来ると聞いているんだ」
今一度、自信満々に言い放つアディルに問いただすが、アディルはその問いを考えながら目を瞑り唸り始める。すると、唐突に瞳を開き口端を持ち上げた。
「勘」
「――勘……だと?」
「あぁ、俺の勘」
にっこり笑んではっきりと答えを言い放ったのを、アッシュは呆れたように息を吐いた。
「お前に聞いた俺が間違いだった」
少し睨むようにアディルを見遣る。
「お前の勘は昔からよく当たる。っだが」
「あっ! あともう1つ!!」
突然、声を上げて右手の人差し指を立てたアディルに、途中で会話を中断させられたアッシュは、眉間の皺を深く刻みながらも次の言葉を待つ。
「かわいい女の子だからっていうのも、理由の1つだね」
その言葉を聞いた瞬間、アッシュは踵を返し薄暗い通路を歩き始めた。
「ちょっアッシュ!? 聞いてる!?」
「一生、言ってろ」
アディルに背を向けたまま、アッシュはそう言い捨て歩き去った――。
アッシュが暗がりの通路の向こうへと消えた方角を見つめ、アディルは息を吐き出し、少し眉を下げ微笑む。
「本当、昔から冗談の通じない奴だな。うちの騎士団長は」
最初に言った『あきなは敵ではない』というのは、本当にそう思っただけのこと。
次に出た言葉は、半分冗談で半分本気。そして、アッシュには伝えなかったもう1つの『勘』