君がいるから
Ⅺ.封じた記憶 ―後―
「――あきな様」
「っはい!」
固く閉じた瞼を勢いよく開き、上擦った声を上げる。目前には、眉を下げた騎士さんが私の顔を覗き込んでいた。その近距離に更に目を大きく開き変な声を上げてしまい、騎士さんは私の反応に驚き目を丸くする。
「すっすみません! 私……あの」
「いえ、こちらこそ失礼致しました。驚かせるつもりはなかったのですが、何やらあきな様の顔色が優れないようでしたので」
「もしかして……何度も呼びまし、た?」
私がそう問うと、騎士さんは頬を人差し指で数回掻いた後、苦笑を漏らす。その表情に、やっぱり――と私も苦笑を浮かべた。
「すみません。ぼーっとしてばかりで」
「謝る必要はありません。ただ……歩いている最中はお気を付けください。まだ脆い箇所も残っておいでです、万が一ということもございますので」
「はい……気を付けます」
「それと、あと数歩でこいつに激突してしまうところでした」
「こいつ?」
騎士さんの体が横方へずれ、その背後から現れたのは。
「固いこいつに真っ向から頭をぶつけては、たん瘤どころではなかったかもしれません」
はははっと笑う騎士さんは、ぺしぺしと軽く叩くそれは様々な模様が彫り刻まれた巨大な柱。それを目にして、口端を引き攣らせながら、私も空笑う。
「もし体調がよろしくなければ、王に会われるのは万全になってからの方がよいのでは。王は早急にとは記してはございませんでしたし」
「大丈夫です! すみません、ご心配かけて。でもジンが呼んでいるってことはきっと大事な用かもしれない。それだったら、なるべく早く会いに行った方がいいですし、それにギルスのお爺さんの様子も知りたいので」
「そうですか、そう仰られるのならば。ゆっくり、参りましょう」
騎士さんの言葉に小さく頷き、先を歩き始めた騎士さんの広く逞しい背中を追う。先ほどまで浮かんでは消え浮かんではまた消えを繰り返していたのを頭を振って消し、唇を一文字に強く結ぶ。この先にいる人物と久方ぶりに顔を合わせることになる人物。足が進むにつれ少しずつ緊張感が生まれていき、ひんやりと漂う空気に小さく背を震わせつつ、歩廊の奥――目的の場所へ。