君がいるから
より近くに来ると、ギルスのお爺さんの弱々しい眼差しがゆっくりとこちらへ向けられた。
途端、胸が締め付けられるかのように苦しくなり――。
「……あきな……よ」
「――はい」
「お主、に……今一度、考えてほしい……」
「考え、る?」
弱々しかった眼差しが途端に厳しさを含んだ気がして、握る拳の指先に力が少なからずこもる。ギルスのお爺さんの次の言葉を待っていたら、傍らに感じていた気配が離れていくのを感じ見遣った。
その先に、ジンはこちらへ背を向けていて、この場を離れていくのだと察する。なんだか、この場に置いて行かれることが不安で、咄嗟にジンの腕の部分の布地を掴む。私の行動に驚き振り返るジンに、言葉にせずとも指先に力を込め、目で訴えた。
すると、ジンは私の必死な訴えを受け入れてくれたのか、一つ頷き微笑を浮かべる。その事にじんわりと安堵感が広がり深呼吸を一度、元の場へと視線を戻し口を開く。
「考える、とは何をですか」
今度ははっきりと、これからこの人の口から何を発せられるのか、不安と緊張とが入り交じりながらの声音。ギルスのお爺さんは、数回ゆっくりと瞬きをし、そうしてようやく口を開く――。
「あきな……以前話したことは覚えておろう……。お主が"龍の血を継ぐ者"だということを」
龍の血。この言葉に、背筋が震え始める。
「闇の者はこの地を狙うだけでなく、全てを破壊し尽くす……必ず。その為には、あきな、お主のその力が……必要不可欠なのだ」
「あの……前にも言いましたけど、私にはお爺さんが期待するような力はないです。第一、私には龍の血なんて受け継がれている筈はないんです」
「いや、必ずお主の中にある。今は……眠っているだけにすぎんのだ……。あきな、頼む……この世界を救ってくれ……頼む、ゴホッゴホッ!! ッツ」
「ギルス! 無理はするな」
言葉に熱がこもっていく内に、ギルスのお爺さんは弱った体を無理にでも起き上がらせようとする。けれど、ジンがそれを制止、再びシーツの上へと沈ませた。それでも、お爺さんは口を噤むことはしない。
「頼む、頼む、あきなよ。お主しかおらぬのだ」
その言葉に、ただ、ただ、私は頭を横に振り続けながら、私へと注ぐお爺さんの期待や縋るような視線から逃れるように地面を見つめた――。