君がいるから
* * *
頬をかすめていく風は少し冷たく、ブレザーを身に着けていない制服のシャツは風を通し、微かに肌が粟立つ。もうどのくらいこうしているのか、自分でも分からない。
「今日は少し風も冷たい。そんな所にいつまでいるつもりだ?」
バルコニーの手すりに体を預けている背後から、聞き慣れた声が耳に届き、振り向かずに応える。
「う……ん。そうだね。今日はたしかに肌寒いかも」
唯、何となしに空の向こうを見つめながら、そう口にする。すると、隣にふわり―風に乗って香った気配に、再び口を開く。
「ねぇ、ジン」
「何だ?」
予想した通り、名を口にすると応えが返ってきた。今の今まで頭の中をいっぱいにしていた言葉を紡ぐ。
「ギルスのお爺さんが言う通り、私の中に本当に龍の血っていうのが流れてるのかな」
「…………」
私の問いに何も答えず、視界の端で影が掠める。その気配を感じて、くるりと振り返ってバルコニーの手すりに今度は腰を預け立つ。そうして、隣に同じく手すりに体を預けるジンを見遣る。
「ジン。そんな顔しないで?」
「すまない」
「ジンが謝ることなんて、何一つないよ。むしろ私が謝ることの方がいつも多いし」
「それは俺も言えることだ。お前にだって何も謝ることはない」
ジンの言葉に自身の足下を見つめながら、ゆるく頭を左右に振る。一つ深呼吸をし空を仰ぐ。
「私ね、ある子に消えろって言われた事があるんだ」
「何だ、突然」
なおも空を仰ぎながらジンへと投げかけると、ジンは小さく返事をした。流れ込んでくるしまっていた記憶――。