君がいるから


 部活の方もなるべく休まずに練習に参加し続けた――周りからどんなに小言を言われようと。悪化した状況のまま逃げるように辞めてしまえば、きっとこの先も同じ事になる気がして――。

 その矢先、試合前日という日。母さんは静かに息を引き取った。悲しみが自分の中を埋め尽くす中、気づけば試合会場のコートの中に私は立っていた。けれど、試合は散々な結果だけが残った。
 スタメンだったのにも関わらず、試合開始から10分でコートから出され、私はずっと一点だけを見つめ続けるだけだった。周りが何か言っていたらしいけど、その事は覚えていない。
 そうなってもなお、私は部活を辞めることはしなくて。理由は逃げたくなかったのと、母さんとの繋がりだと思ったから。バスケを好きになったきっかけが、母さんと幼い頃遊びに行った公園で中学生くらいのお兄さん達がバスケをとても楽しそうにしていて――その中にたった1人の女の子が。その姿は今でも脳裏に焼き付いている。すごくかっこよくて、笑顔がとても可愛らしく――男の子に負けない速さと器用さでゴールを決める瞬間がとても綺麗で――。幼心でも自分もそうなりたいと思った事がきっかけ。母さんはそんな私へボールをプレゼントしてくれ、そのボールを持っていつも公園へ向かった。ボールが空に上がり、初めてシュパッという音と一緒に下方へ落ちた時は、言葉では良い表せないものが体中を駆け巡った。

 何となしに、あの時の公園に足を向けてその時の光景を思い出し、もう一度バスケに集中するように。そうして月日が流れる間でも、チームメイトとの溝は埋めることは難しく、私は勝手にきっと時間が解決してくれると思っていたから、少し気は滅入りしたものの最後の夏を迎えた。

 予選を勝ち抜き、いよいよ決勝戦への切符は目前という時――。準決勝、ラスト2分。点差はワンゴール、だけど逆転にはスリーポイントが必要。シュートが決まって最後まで守り切れれば、あの強豪校と同じコートに立てる――その想いは皆一つ。
 ふと、私にボールが回ってきた――私を軽蔑した目で見ていたあの子からのパス。それを受け取ってあの子を見ると、澄んだ強い眼差しで合図を送られ、私はそれに頷き応えた。何より、この手に委ねられたことが嬉しく、期待にさえ応えたかった。
 ――でも、私が放ったボールはガンッと無情にも音を立てて下方に落ちる。そのボールを見た時、一瞬にして周りの音が消え去った。運悪く対戦相手にボールは取られ、一斉に方向を変え走り出す。私は、何故かその場から動く事が出来なくて、ただ自分の荒い呼吸音だけしか聞こえなかった――。


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