君がいるから
更に強くなる腕の圧迫に顔が歪む。自身の方に引こうとすればする程、それは増していく。
「誰にも、相手の気持ちなど分からんだろう? それを本人に直接聞き質したのか?」
問いかけに動作で否定する。強い漆黒の眼差しに堪えられなくて視線が下がっていく。
「俺を見ろ、あきな」
そう言われても上を向くことはせず、掴まれている右腕を自身へ引くのにびくともしない。
「お願い。腕から手を放して……」
腕を掴んでいる手の甲に、自分の掌を重ねて離れて欲しいと懇願する。それでも、離れていく気配はなく、次第に瞼に熱を持ち始めてきてしまう。
「あきな」
そうやって優しい声で、私の名前を呼ばないでほしい。
「あきな、俺を見ろ」
「……嫌だ」
「お前はそうやって、クラスメイトとやらからずっと逃げてたんじゃないのか。逃げたくなくて辞めなかったと言っていたが、本当はずっと逃げてたんじゃないのか」
『あんたはそうやっていつもいつも、何言われても黙って澄ました顔して。腹が立たないの!? そうやって黙って被害者面してれば、誰かが助けてくれるなんて思わないで!!』
「俺を見ろ。感情を閉じ込めるな」
言われて、開けた視界の先には漆黒の瞳しか映っていない。気づけば、両の頬は温かい掌に包まれて上を向かされ、目尻を数回親指で撫でられる。
『さとみさんもお若いのに、子供達もまだまだ母親が必要だろうに……お気の毒ね』
『あきなちゃんは、大人ね。涙一つ見せないなんて』
『あら、でもあまり子供らしくないじゃない? 無表情のまま目が腫れてる形跡もないし。普通だったら泣きじゃくるでしょう、コウキくんみたいに』
お通夜の日、手伝いに来てくれていた親戚の人たち。
「私はやっぱり酷くてずるいんだ」
「あきな」
「母さんの葬儀の時、一度も泣いてないの……」
ごく小さなことでは泣くくせに、肝心な時には涙1つ流す事も出来ない。謝ることだって、肝心な時に素直に言葉にすることさえ出来ない自分が、いつも嫌いだった。
アッシュさんに言われた言葉は、あの子に言われた言葉と一緒。きっとアッシュさんは、私の中にある黒い部分を全て見抜いていたんだ。
「……ジン。今――私に出来ることって何だと思う?」
「…………」
「もしも、本当に私がこの世界の……国の助けになる存在?」
本当にそうだったら――この世界に来た理由なら。
「私……やる」