君がいるから
そう告げた直後、顔を歪めるジン。それは、何処か辛そうで苦しそうで――。
「私に何が出来るか、まだ分からない。でも、ジン達が私にしてくれたことを返せるように頑張るから。不安に思う気持ちも分かる……だけど、頑張るから」
これが、罪滅ぼしになるなんて思わない。あの子を――皆を傷つけてしまったことは消えない。
「私……頑張る――」
こつん――と額にジンの額が重なって、続く筈だった言葉は飲み込んだ。驚くと同時に見ればジンの息遣いが聞こえる程の距離。
「……お前はそれでいいのか」
呟かれた声は密着しているからか、とても大きく――それでいてとても澄んで聞こえる。その声は、少し震えていたのは、私の気のせいなのか。私達の背中を流れ過ぎていく風が、私たちの髪をなびかせて、毛先が肌に当たってくすぐったさが残って、目を細めて下方を一点に見つめる。
「うん、頑張る。ジン達の役に立てるように」
頬を包む温もりが小さく反応し、指が肌を撫でる。その両の手首にそっと触れて握る。
「……すまない」
「ううん……ジンが謝ることなんてないって、さっきも言ったでしょ?」
「俺達の争いにお前を巻き込んだ。何も関係のないお前を……。だが、1つだけ約束させてほしい」
「約束?」
額に合わさった温もりが離れ、温もりが残る額を風が撫でる。さっきまで近くにありすぎて見えなかった漆黒の瞳が見える。瞳はまっすぐに、強くジンもまた何かを決意したような眼差しで私を見据えている。
「ジン?」
「お前を必ず元の世界に返す」
一度瞬きをし、もう一度真っ直ぐに目を合わせてくる。
「必ず。俺はそれを必ず果たす。それとお前も約束しろ」
「何、を……?」
「何があっても――自分だけを責めるな。自分の身を第一に考え、守れ。絶対に」
守れ――ジンが言っている言葉の意味が私には理解出来ない。だって、こんなにも今まで見たことないくらいの顔をして、まだ頬にある両手が微かに震えていることも。
そして、口端をゆるやかに上げたジンが、柔らかな表情に変えて――。
「狡くて卑怯なんだ。俺も」
ううん――頭を左右に振って否定する。父さんにもコウキにも、親友の由香や秋山にさえ言えなかった。言おうとすると、声が出なかったのに。ジンへ自然に話せたことを、不思議に思えなかったのは何故だったんだろう。
「あ、りがと、う……ジン」
ジンの顔がボヤケて見える。口端を上げて目を細めたら、ほろりと落ちた感覚。肌を伝って顎に辿り着き、ぽたり――と落ちた。止まることなく流れては落ちていく――やっぱり、本当に泣き虫なんだと改めて気づかされる。